歳を重ねると、「脳」の老いが心配になる。2025年には日本の認知症患者が700万人を超えると推計されている。過去の日本における認知症に関する大規模調査によれば、男性の有病率は70代後半で約11%、80代前半で約16%だが、80代後半では約35%まで上昇する。80代の途中に「壁」が存在するのだ。
ベストセラー第2弾の著書『80歳の壁[実践篇]』が話題の精神科医・和田秀樹氏はこう指摘する。
「80歳という年齢になったことを区切りに、いろんなことをやめてしまう人が多いのが問題だと思います。たしかに、80歳を過ぎると衰えが進み、できないことが増えてくる。耳は遠くなるし、目もかすんできて、代謝機能だって衰えます。しかし、“まだできること”まで手放してしまうと、衰えに拍車をかけるばかりになる。だからこそ“できることを維持する”という発想が重要だと考えています。
認知症についても同様です。認知症は現代の医学では完治させられず、薬もせいぜい進行を遅らせることしかできません。しかし、疫学調査の結果や私の臨床経験から“できることをやめない”ことが進行を遅らせたり、人生の質を高めることにつながると考えています。“危ないだろう”と思い込んで出歩く機会を減らしたりすれば、認知症がどんどん進みかねない」
別掲のリストは、認知機能が衰えてくる80代以降に心身の健康を維持するための「べからず集」で、和田医師が重要度を格付けした。
「年相応に……」という発想から予防的に“粗食にして、外食は控えたほうがいいのかな”“免許返納したほうがいいかな”と考えることのリスクを和田医師は強調する。
「高齢になるほど、食べたいものを食べたほうがいい。低栄養を防ぐことが、脳や免疫機能の維持に望ましいです。外食はカロリーが高くなるから避けようとする高齢者も多いが、今はファミレスでもカロリーや塩分控えめの健康的なメニューが用意されています。外出の機会を増やし、美味しそうな店を探すだけでも脳に刺激となる。社会との接点を増やすことは、認知機能の維持のためにも非常に重要です」