過去の日本における認知症に関する大規模調査によれば、男性の有病率は70代後半で約11%、80代前半で約16%だが、80代後半では約35%まで上昇する。80代の途中に「壁」が存在するのだ。ベストセラー第2弾の著書『80歳の壁[実践篇]』が話題の精神科医・和田秀樹氏はこう指摘する。
「80歳という年齢になったことを区切りに、いろんなことをやめてしまう人が多いのが問題だと思います。しかし、“まだできること”まで手放してしまうと、衰えに拍車をかけるばかりになる。だからこそ“できることを維持する”という発想が重要だと考えています」
心身の衰えを食い止めるために積極的にやるべきことも多い。別掲のリストは和田医師が「やってほしいこと」の重要度を採点したものだ。「オシャレをすること」「笑うこと」が★5つとなった。
「身だしなみにこだわりがなくなって、外に出る機会が減り、社会と断絶していく……というのは認知症の初期症状のようなもの。オシャレすることは、誰かに会おうとする気持ちに通じる、活力の源と言えるでしょう。
笑うことも全面的にいいことで、弊害は何もありません。ひとりでテレビや映画を見て笑うのでもいいですが、何らかの外に出る活動をして仲間や友人と笑い合えるような生活シーンがあれば、それがいちばんいい」
ちょっとした家事も、脳の老化を防ぐことにつながるという。★4.5の重要度と採点されたのが「料理」だ。
「料理は複雑な技術を要するもので、脳のトレーニングになります。やるうえでのポイントは、毎日同じ物を作るサイクルにならないこと。メニューの検討、買い物での食材選びを経て、台所に立って自分で作る。その繰り返しを心がけましょう。
生涯独身の人や死別、離別などを経た高齢の“おひとりさま”は今後、どんどん増えていきますが、『ひとり暮らし』もマイナスの面ばかりではなく、前向きに捉えられるところがたくさんあります。孤独を恐れる必要はなくて、料理や掃除、洗濯などをすべて自分でやろうとすることは、脳の活性化に間違いなくつながります。もちろん、運良く新たな伴侶と出会ったら一緒に暮らしてもいい。ひとり暮らしもいいし、新たな出会いがあるのもいいのです」
脳に刺激を与える有酸素運動として「歩く」ことや、勝つために研究を重ねる競馬などの「ギャンブル」も、リストにあるような注意点は存在するものの、積極的に取り入れていいという。できることは、まだまだたくさんあるのだ。
※週刊ポスト2023年5月5・12日号