人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、鳥インフルエンザについてお届けする。
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2023年4月11日、WHO(世界保健機関)は、中国・広東省に住む56歳の女性が鳥インフルエンザ「H3N8型」に感染して死亡したことを発表しました。女性は生きた家禽類との接触歴があったそうです。
実は昨年も、中国から同型の鳥インフルエンザの人への感染報告はありましたが、死亡事例は初めてです。報告によると、このウイルスは人に容易に感染する能力は持っていないため、感染が拡大するリスクは低いとされました。感染拡大するように変異したウイルスではないということにはホッとしたものの、今後が心配ですので鳥インフルエンザの問題についてお話ししましょう。
鳥インフルエンザは人に感染することがあります。偶発的に人に感染するとウイルスの遺伝子が変異し、新たな宿主である人に適応したウイルスが選択されて残っていきます。はじめのうちは鳥インフルエンザが人に感染するのは稀であっても、この偶発的感染が繰り返され、ウイルスの変異が蓄積されると、いつの日か人に感染伝播しやすい性質を獲得することになります。人から人に連続的に感染するようになったウイルスは、鳥型から人型のウイルスに昇格して、新しい人のインフルエンザウイルスとなるのです。
基本的に人は鳥のウイルスに免疫を持っていませんから、ウイルスに暴露されれば感染成立しやすく、感染すれば重症化しやすい傾向になります。ですから、人社会で大流行し、「新型インフルエンザ」としてパンデミックを起こすのです。そして2、3年大流行して多くの人が免疫を持つようになると「季節性インフルエンザ」になって毎年流行を繰り返すようになります。
時に、鳥インフルエンザが豚に感染して豚インフルエンザから新型インフルエンザとなることもあります。どちらにせよ、人の新型インフルエンザも、それに続く季節性インフルエンザも、祖先を辿れば鳥インフルエンザに行きつくのです。
この数年はコロナで大変になっていますが、この「新型インフルエンザ」のリスクも重大で、鳥インフルエンザはその前触れでもあります。新型インフルエンザが発生した場合の感染伝播の速度は新型コロナウイルスより格段に速く、全世界的全世代的な同時大流行となる可能性も高いです。その病原性や致死率は元となる鳥インフルエンザによっては、現在の新型コロナよりも桁違いに高くなることも想定しないとなりません。