「同僚が会社を休んでもう1か月になります。この春に受けた人間ドックで早期の甲状腺がんが発見され、すぐに手術を受けてひと安心だったはずが、退院してから急に手足がしびれたり、声がうまく出なくなったりと体調が悪くなってしまったそう。しかも原因が『検査』にあったらしいと聞いて、毎年受けていた人間ドックを、やめた方がいいのかな?と不安にもなってきて……仕事も家事も手についていません」
そう話すのは、会社員のYさん(仮名・50代)だ。病気を見つけ出し、治療するための検査でかえって体が蝕まれる──そんな「不都合な真実」がある。常磐病院の乳腺外科医、尾崎章彦さんが解説する。
「安易な検査によって“病気を見つけすぎる弊害”は確かに存在します。例えば前述の甲状腺がんは進行が遅く、ごく早期なら治療せずに注意して経過観察するという選択肢があるなど、亡くなるまで共存できるケースもある。一方で手術をするとホルモンの補充が必要になるほか、声がかれてQOLが低下するケースや術後出血による窒息のリスクがある。実際、韓国では過剰診断として問題になっています」
ナビタスクリニック川崎の内科医、谷本哲也さんも、画一化された検査メニューは不健康のもとだと指摘する。
「どの病気にどのくらいの確率でかかりやすいかは遺伝や生活習慣など、一人ひとりの体によって異なります。そのため本来、健康診断や検査の内容や間隔は、個人に合わせたオーダーメードが理想ですが、実際はなかなか難しい。それでもある程度は取捨選択しなければ、病気を見つけ出せるどころか、過剰検査で体にダメージが出るなど逆効果になる場合もある」
日本の異常値は世界の正常値
では、“捨てる”べき検査メニューは一体何なのか。東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一さんは、診断された数値に一喜一憂する感覚は捨ててほしいと話す。
「血圧やコレステロール値など、日本の定期健診で使われる基準値は科学的根拠だけで決められているわけではない。各学会の権威や、病院や製薬会社の利益に左右され、“医者ファースト”の理由で定められていると言っても過言ではありません。患者が増えればそれだけ儲かるクリニックがあるのは事実です。
例えば血圧は冬場になったり緊張したりすると上がり気味になる。しかし健康な人はそれを正常値に戻す力を持っています。だから単に数字だけを見るのではなく、復元力までを考えて『正常』『異常』を判断すべきです」(大櫛さん・以下同)
特に血液検査の「コレステロール値」は、国際的な基準と大きくかけ離れている。