ライフ

『魚ビジネス』著者・ながさき一生氏 「ポジティブな見方をすれば不都合極まりない魚ほど楽しい商材はない」

ながさき一生氏が語る

ながさき一生氏が語る

 魚と日本人の今を見つめ、よりよき明日を拓くべく、あくまでゆる~く活動中の、(株)さかなプロダクション代表、ながさき一生氏(38)。このほど『魚ビジネス』を上梓した魚界の伝道師は、新潟・筒石漁港に代々続く漁師の家庭に生まれ、東京海洋大学及び大学院で学ぶ間、学費を稼ぐために築地市場の卸売企業で働いた経験も持つなど、来歴からしてピッカピカ! だが、著者自身は今の自分を「完全に想定外」と言う。

「元々は音大志望だったんですけど、学費も高いので断念し、次に興味のあった心理学系の学部は、いかんせん文系科目が超苦手で、国立大縛りだとどこもE判定だったんです。それで唯一、B判定だった海洋大に乗り換えたという、人に話すとかなりガッカリされる動機で(笑)」

 それでいてふと気づくと、日本の魚の豊かさを伝える仕事に就いていたと言い、

「たぶん、何かに導かれたんですね。アハハハハ」と、魚の未来をホンキで案じる人は、あえて豪快に笑う。

 副題に〈食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養〉とあるが、本書では序章「世界のセレブは、なぜ日本に魚を食べに来るのか」以降、寿司店に見る魚ビジネスの実態や、近大マグロや養殖魚の現在。著者が監修を務めたドラマ『ファーストペンギン!』(昨秋放送 日本テレビ系列)でも言及された鮮魚の直販ビジネスや、約70年ぶりとなる漁業法改正(2020年)の意味。世界的な鯖缶ブームや〈培養魚肉〉の驚異的進化に至るまで魚と日本人の今をほぼ全面的に網羅する。

「今の仕事はたどり着いた天職で、なるべくしてなった感覚がありますね(笑)。うちは僕で5代目なんですけど、表向き、父は漁師を継がせる気はなかったです。それだけ今の時代に漁師を続けるのは大変ってことですね。だから、海洋大に入った後は、自然と魚の価値を高めるために水産経済や魚のブランディングに興味を持ちました。それに港育ちの自分は、身近な魚のことで人様のお役に立てるなら、本望だなあと思ったんですよ。

 あれは4歳の時か、うちの前の浜にホタルイカが来て、海一面が青白く光っていた、あの光景は一生忘れないと思うし、水産畑で知的財産の研究をしたのは僕くらいだろうしということで、世間の人が知ってるようで知らないことを、他に言う人がいないから自分が言う、みたいな仕事の仕方、考え方なんです」

 例えば鯖缶にも旬があり、〈加工品の良し悪しは大方、原料で決まる〉以上、最も脂が乗る秋~冬に製造され、しかも〈なるべく昔のものを選ぶ〉のがベストという製造年月日の意外な見方や、〈様々な食材を世界各地から一箇所に集めて味を追求する〉寿司と刺身では鮮度の意味合い自体違うことなど、本書には眼から鱗の情報がずらり。

 また大間のマグロや関サバといったブランド魚は何がその値段を決め、天然物と養殖物と培養魚肉、それぞれの存在意義についても事実だけをフェアに、しかも極力楽しく語ろうとする姿勢が印象的だ。

「ここにも書きましたけど、もうサンマは獲れないとか、乱獲がどうとか、ネガティブな情報ばかりが、しかも根拠もなく流布されているのが今の消費者が置かれた状況だと思うんですね。たぶんそれはメディアのスポンサーになれる規模の企業が漁業にはないからで、裏を返せば誰かしらにとって都合のいい情報を、我々は事実として刷り込まれているともいえる。

 仮に何かの事業に漁業権が抵触した場合、相手に不利な情報を流して弱体化させることは十分ありうるし、大規模漁業で儲けたい人に有利な話が正義として語られたりもする。実際は現場の小規模な漁師にも漁業資源や地球環境に配慮している人は大勢いるし、サンマがいないのは別に漁師のせいでも何でもないのに、です。そういう〈ドロドロしたフィルター〉やバイアスの存在を僕は大学生の頃から痛感していて、それが今の活動に繋がっています」

関連記事

トピックス

清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
引退すると言っていたのに誰も真面目にとりあっていなかった(写真提供/イメージマート)
数十年続けたヤクザが引退宣言 知人は「おめでとうございます」家族からは「大丈夫なのか」「それでどうやって生きていくんだ」
NEWSポストセブン
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト