「われわれの祖国に対し、再び本当の戦争が始められた」。これは5月9日、戦勝記念日の式典におけるロシアのプーチン大統領の発言だ。ウクライナ侵攻が始まって1年以上が経ったいま、“新たな戦争”を仄めかした意図はどこにあるのか。プーチン大統領研究の第一人者で筑波大学名誉教授の中村逸郎さんが解説する。
「戦争に核を用いることを示唆していると考えられます。なぜなら、ロシアにはもう戦局を変える兵器がなく、残されている決定打は核だけだからです。以前とは違うステージに入ったことを強調したかったのでしょう」
もし現実となれば、どんな展開が予想されるのか。
自作自演で核攻撃を正当化する
すでにプーチン大統領は今年3月、ベラルーシに戦術核兵器を配備する計画を発表している。
「プーチン氏が核を撃つ『Xデー』は5月19日から始まるG7広島サミット期間の可能性があります」(中村さん)
世界はいま、過去に例がないほど緊迫しているのだ。自衛隊元陸将の福山隆さんがこう話す。
「戦争をやめるとプーチン大統領は国内で求心力を失い、政治生命はもちろん命も失うことになる。また、いま戦争をやめれば勢力を増してきている中国が世界のイニシアチブを取ってしまうばかりか、ロシアが崩壊する危険もあります。だから、プーチン大統領は走り続けるしかない状況なのです。
何より、どの戦争も同じですが、継続すればそれだけ際限なくエスカレートしていくのがセオリーです。つまり、人やものがいくら犠牲になったとしても、可能な作戦はなんでもやるようになる。そこで登場するのが、最終兵器である核というわけです」
中村さんが続ける。
「“経済がめちゃくちゃになっても戦うべき”と主張する強硬派もいますが、ロシア国内でも“戦争は間違いだった”との声が日に日に高まっています。大統領府の高官まで“今回の戦争はやりすぎだ”と公言するありさま。プーチン氏の地位そのものが危うい状況です。そういった“内なる抵抗勢力”を沈黙させるためにも、一発逆転を狙って核兵器を使う可能性があるのです」
では、「核のボタン」が押されるとき、一体どこが狙われるのか。
「標的として第一に考えられるのが戦争相手国のウクライナ。第二にウクライナ国境近くのロシア領内に“自作自演”で落とすことが考えられます。周囲でとやかく言う人たちや自身の言うことを聞かない人たちを一掃しつつ、ウクライナやアメリカのしわざだと主張し、他国へ核攻撃するのを正当化するシナリオです」(中村さん)