芸能

韓国出身シンガーソングライターKさんが語る「日本語を間違えて笑われた瞬間の気持ち」【連載「日本語に分け入ったとき」】

韓国出身のシンガーソングライター・Kさん

韓国出身のシンガーソングライター・Kさん

 日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。1人目は韓国出身のシンガーソングライターのKさんにうかがった。Kさんは生活全てを日本語で通すうちに「気になること」が出てきたという。それは何か。【全3回の第2回。第1回から読む

 * * *
 Kさんの発音は(偉そうな言い方になってしまうが)アナウンサーとして仕事をしていたわたしが聞いても、細かい部分も含めとてもきれいだ。「音」を仕事としている方ならではの、微妙な差異も聞き漏らさない繊細な感覚が、発音や発話のリズムにも反映されているのではないかと思う。「気になること」というのは、もしかしたらそのあたりと関係があるのだろうか。

「テンポです。『間』ですね。誰かと話しているとき、相手の日本語を頭の中で翻訳していると、会話に間ができてしまう。それがすごく気になったんです。

 会話は、テンポがすごく大事だと思うんですよ。コミュニケーションの命と言ってもいいんじゃないかな。会話でワンテンポ遅れると、何か取りこぼすって言うか、流れてっちゃうものがあるような気がする。だから、絶対にハングルでは考えないことにしました。

 言葉を覚えるとき、たとえば『ケータイ』だったら自分の国の言葉では『ヘンドポン』。ああヘンドポンのことなのか、と意味を理解する。で、覚えたらもうハングルの『ヘンドポン』は切り離す。『ケータイ』だけ。翻訳しない。日本語は日本語で理解するようにしたんです」

 インタビューに際して、わたしは「母語に翻訳しなくても日本語が分かるようになったのはいつ頃ですか?」という質問を用意していた。ところがKさんはにこにこして「一切ハングルでは考えなかったんです」と言う。思わず「そんなこと、できるんですか?」と聞いてしまった。

「自分にとってはその選択肢しかなかったです。日本にいるんだから、日本語で考えようと思った。そして何といっても、周りの人たちやスタッフのおかげなんですよね。感謝しかないです。人と話す時は辞書を使わないので、とにかくみんなに質問しまくっていましたから。

 たとえばさっきの『ケータイ』について説明してもらうとして『電話やメールができる。ニュースも読めるし地図としても使えるし、買い物も調べものもできる』って教えてもらったとする。その中の『地図』とか『調べもの』が分からなかったら質問する。説明してもらう。そうやっていくと、さらに自分の言葉が増える。

 いくつか知らない単語が出てきても、分かる言葉を手掛かりにして考えると『あ、これかもな』って想像がつくようになるし、質問するとみんな親切に、分かりやすく説明しようとしてくれるから、教えてもらう言葉以外のものもどんどん頭に入ってくるんです。結果的にコミュニケーションの時間が長くなって、人との距離も近くなる。当時のスタッフはすごい面倒くさかったと思うんですけど、日本語を一年話したら一歳分成長できるわけじゃないですか。子供が『パパこれ何?』『それおいしいの?』『どうして?』って、親を質問攻めにして覚えていくみたいに、日本語を吸収していったという感じです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン