70代以上の女性の過半数がのんでいるという「降圧剤」。しかし、副作用のリスクがあるのも事実だ。病気と副作用をてんびんにかけたとき、必ずしも降圧剤が必要であるとは限らない。にもかかわらず、なぜ多くの人に処方されているのか。医師で南日本ヘルスリサーチラボ代表の森田洋之さんが解説する。
「いちばんの理由は、病院にとってメリットがあることです。降圧剤は一度服用を始めると、長年にわたってのみ続けることになるため、定期的に病院に来る患者を獲得できます。実際に、50才から降圧剤をのみ始めた患者が90代になっても服用を続けているという話もある。長くのむほど、中断して血圧が急上昇するリスクが生まれるため、やめることは難しくなります。
また、高血圧患者は高コレステロール血症や糖尿病にもなりやすいうえ、いずれは認知症になるリスクも多分にあり、長期にわたって病院に通い、治療を受けることが予想されます」
つまり、降圧剤を処方すれば数十年単位で病院にお金を落とし続けるクリニックの“お得意様”になってくれる可能性が高いということ。
「高血圧のほとんどは食事や運動など生活習慣の改善をすれば快方に向かいます。しかしそうした“生活指導”は診療報酬が低いうえ、その結果高血圧が治ったら、患者は病院に来なくなる。患者がいなければ病院は利益が出ず、経営を続けられなくなるため、生活指導よりも薬の処方を優先する病院も存在するのが現実です」(森田さん・以下同)
利益を追求した結果、外国人が見向きもしない降圧剤が処方されるケースもある。
「ARB(アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬)は降圧剤の中では比較的新しい薬とされていますが、世界的に見ると使用頻度が低い。しかし、日本ではなぜか多く処方されています。
その背景にはARBには一部薬価が高いものがあり、それを売りたいという製薬会社と、それに応える医師の利害関係が存在する。新しい薬だからよく効くと考える人もいますが、大きな間違いです。むしろ、新薬ほど予期せぬ副作用が出やすいため、古い薬の方が安全な場合もあるのです」
体のために服用し始めたにもかかわらず、気づいたらほかの生活習慣病も併発して薬漬けにされる──そんな本末転倒な悲劇を避けるためには、薬を減らすことが肝要だ。森田さんはまずはかかりつけ医に相談して、様子を見ながら薬を減らしてほしいとアドバイスする。
「人によっては血圧が急上昇して倒れる場合や、ほかの持病が悪化することもあります。こっそりのむのをやめてしまうと、何か別の病気になったときに、医師が正しく診断できない可能性も高くなるので禁物です。まずは、医師に『試しにやめてみたい』と相談してみてください」