神奈川県川崎市の北西部に位置する「区」が、平均寿命で男女ともに全国1位となった。他の地域と何が違うのか──。
「喜ばしいことですが、全国1位の理由は、“はっきりわからない”というのが正直なところです」
そう話すのは、川崎市麻生区役所の地域ケア推進課の担当者だ。
厚生労働省は5月12日、「令和2年市区町村別生命表の概況」を公表。市区町村別の平均寿命では、川崎市麻生区が男性84.0歳、女性89.2歳でともに全国トップとなった。前年の男性2位、女性4位から順位を上げての“快挙”だ。
川崎市の7行政区のひとつである麻生区は1982年に多摩区から分区して誕生し、人口は約18万人。65歳以上の割合が約24%、75歳以上は同約13%と市内で最も多い。
「公園」が多い影響?
市北西部の多摩丘陵に位置し、区の中心は小田急線の新百合ヶ丘駅。東京・新宿まで急行で約30分のベッドタウンとして知られる。駅の北側に区役所があり、南側は大型ショッピングセンターなどの商業地域だ。
平均寿命の県別ランキングで神奈川は男性5位、女性15位と決して最上位ではない。市内の他区を見ても、全国ランキングの女性25位に高津区が入るのみ。川崎区は逆に男性のワーストランキングで17位に入っている。周辺地域と比べても、麻生区の住民が“長生き”なのはなぜなのか。
前出の区の担当者は「ひとつ言えるのは、健康に気をつけている区民の方が多いということでしょうか」と言葉を継ぐ。
「各種アンケート調査から、がん検診を定期的に受ける方の割合が高いこと、15分程度の距離なら歩いて移動するという方の割合が高いことなどがわかっています。行政の医療や介護への取り組みでは、市内の他区と比べて突出するものはないかもしれませんが、区民が健康的な取り組みをやりやすい環境が整っている面はあるかもしれません」
区がホームページで公表する〈令和3年度版 【統計データから見た麻生区の現況】〉によれば、麻生区の公園数は321か所で市内7区の中で最も多く、2位の宮前区(213か所)に大差をつけている。1.2ヘクタール以上の公園は15個ある。
「数多くある公園などで体操やウォーキングをされる方は多いです。また、戸建ての住宅街が整備され、街中をウォーキングしやすいというのもあるかもしれません」(同前)
たしかに、住宅が一戸建てである割合は市内他6区が2割前後なのに対し、麻生区は4割超。持ち家率も7区で唯一6割を超えており、所得水準も高いことが窺える。
「住環境がよく、富裕層という表現が適切かわかりませんが、各種検査など健康管理に目を向けられる世帯は多いのだと思います」(同前)