歳を重ねるとともに衰えを実感することの多い足腰の筋肉。加齢による筋力低下のスピードは速いのだという。『100歳まで自分の力で歩ける「ひざ」のつくり方』など数々の著書がある戸田佳孝医師(戸田整形外科リウマチ科クリニック院長)が語る。
「上半身と比べて脚の筋肉は年齢とともに急速に弱まります。30歳の筋力を100%とすると、ひざを伸ばす力は60歳で55%、70歳では40%に落ちることが海外の研究で報告されています。股関節周りの筋力も同様です。つまり、老化は脚から始まると言っても過言ではないのです」
戸田医師が続ける。
「そうお話しすると、『歳をとってから鍛えても手遅れでは?』と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。加齢によりすり減ったひざ関節が自然に回復することはありませんが、その周囲の筋肉を鍛えることで、痛みがなく元気な状態で日常生活を送ることは十分に可能なのです」(以下、「 」内のコメントは戸田医師)
100歳まで丈夫に歩けるひざを手に入れるために、戸田医師が勧めるのが太ももの表側にある「大腿四頭筋」の強化だ。
「基本となるのは、ひざや体の姿勢を安定させるために使う大腿四頭筋を鍛えることです。大腿四頭筋はひざをまっすぐ伸ばすのにも大きな役割を果たす筋肉で、すでにひざの痛みがある方も、まだ痛みがない方も、ぜひ積極的にトレーニングしてほしい部位です」
戸田医師が勧めるやり方は図1で示したように、座った姿勢のまま行なう実に簡単な動作だ。
「椅子に座って仕事をしている時やテレビを見ている時など、ちょっとした合間時間に実践しやすく、誰にでもお勧めできる運動です」
そもそもひざに痛みが生じる原因の一つは、脚の筋力が低下することで歩行時に骨盤が傾き、体の横揺れが強くなって、ひざ軟骨が擦れて傷つくことにあるという。
「軟骨がすり減ってひざが変形しても、その初期は必ずしも痛みが出るわけではありません。もし痛みが出始めて、特に階段を降りる時にひざが痛む場合は、大腿四頭筋とともに外ももの『外転筋』と内ももの『内転筋』を鍛えるとよいでしょう(図2)」
いずれも股関節周りの筋肉で、これらの衰えはひざへの影響が大きい。
「股関節外転筋の力が弱くなると、階段の昇降時などに体の横揺れが大きくなり、ひざにかかる負担が増します。また、ひざのお皿(膝蓋骨)とつながる内転筋が衰えると、関節の噛み合わせが悪くなり、軟骨がさらにすり減る原因になります」