突然だが、あなたは「前屈」ができるだろうか。もし、まっすぐ立った姿勢から上体を倒して床に手をつけることができなければ、リンパの流れが滞っているかもしれない。深部リンパ協会代表理事の夜久ルミ子さんが言う。
「手が床から10cm以上離れてしまう人は、わきの下、お腹、脚のつけ根のリンパがかなり滞っています。リンパの“ツマり”によって、その周辺の筋肉や関節が硬く、動かしづらくなっているのです。同様に、左右の腕を上下から伸ばして背中で手を組んでみてください。できなければ、やはりわきの下のリンパが滞っている可能性大です」
「リンパ」とは「リンパ液」の流れのこと。人間の体には、動脈や静脈とともに「リンパ管」が無数に走っており、その中を流れるリンパ液は、全身を巡って老廃物や細菌を回収し、排出させる役割を果たしている。
「脂肪燃焼や疲労回復、傷の治癒などのために細胞が働くと、副産物として二酸化炭素や老廃物が出ます。それらが毛細血管を通って静脈から心臓に向かう途中でリンパ管が回収しているのです。
そうして“有害物質”を回収したリンパ液は、わきの下や鎖骨、そけい部(脚のつけ根)などにある『リンパ節』でろ過された後、水分と共に尿や汗として排出されます。リンパ節は同時に、そこを通るリンパ液の中に細菌やウイルス、がん細胞などを見つけると即座に免疫機能を働かせてシャットアウトする、いわば体の“関所”でもあります」(夜久さん・以下同)
つまり、リンパの流れが悪かったり、リンパ節が充分に機能を果たせていなければ体内の老廃物が排出されず、リンパに連動して流れる血液から栄養素が充分に運ばれなくなる。すると、筋肉や関節の動きが悪くなるほか、体のだるさや重さ、冷え、むくみ、肩こりや首こり、自律神経の乱れ、免疫力の低下など、さまざまな不調を招くことになる。リンパの流れは、全身の状態を左右するのだ。
“真のリンパ”は筋肉の中にある
エステなどで行われる、肌を優しくさするようなリンパマッサージももちろん効果は期待できる。だが夜久さんによれば、肌をなでるマッサージでアプローチできるのは、全身のリンパのうち、わずか6%の「浅部リンパ」のみ。
「残りの94%のリンパは、筋肉の中に流れている『深部リンパ』です。リンパ液は血液のように自然に流れるのではなく、筋肉の動きが“ポンプ”の役割を果たし、リンパ管の中を心臓に向かって流れます。そのため、運動不足や座りっぱなし、または立ちっぱなしの生活や、補整下着などのきつい締めつけによっても、リンパの流れは悪くなります」
女優やアスリートなど、著名人が数多く通うアンチエイジングサロン「ソリデンテ南青山」院長で理学療法士の小野晴康さんが言う。
「リンパの流れが悪くなって筋肉が硬くなると、筋肉をぴったりと包んでいる『筋膜』というコラーゲン質の膜も硬く、動きにくくなります。筋膜の動きが悪くなると、それに包まれている筋肉はさらに硬くなって動きづらくなり、血行も悪くなる。すると筋膜が筋肉にベッタリと癒着し、より動きが妨げられます。そうなれば、筋肉の中にあるリンパの流れはさらに悪くなる。ひとたびリンパの流れが停滞すれば、悪循環に陥るのです」
その状態が長く続けば、やがて筋肉の中にある毛細血管が機能しなくなり、その周辺に新しい毛細血管ができて、筋肉の外側から酸素や栄養を運ぶようになる。
ところが、この新しい毛細血管が供給する栄養は、脂肪細胞に蓄えられやすいという性質を持っている。つまり、深部リンパの滞りは、体の不調を招くばかりでなく、あなたの筋肉を脂肪に変えてしまう“デブのもと”にもなるのだ。だが裏を返せば、筋肉の中にある深部リンパの流れさえ整えれば、健康もスリムな体も手に入れられるということ。