二刀流でメジャーを席巻するエンゼルスの大谷翔平(28)、今季は開幕から好調な投球を見せたブルージェイズ・菊池雄星(31)。そして、NPBではパ・リーグで首位争いをするロッテのエースに成長した佐々木朗希(21)――3人に共通するのは「岩手出身」という点だ。なぜ、岩手から怪物が相次いで生まれるのか。佐々木の高校時代に岩手・大船渡高校の監督として指導した國保陽平氏(36、現・盛岡第一高校野球部副部長)の考えを、ノンフィクションライター・柳川悠二氏が聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
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今年3月に行われた第5回WBCの決勝・アメリカ戦に勝利したあと、侍ジャパンのクローザーを務めた大谷翔平は、米国の番組に生出演した。レッドソックスで活躍したレジェンドであるデビッド・オルティーズは、「ちょっと真剣な話をしていいか」と断りを入れた上で、大谷にこんな質問をした。
「いったい君はどの惑星で生まれたんだい?」
大谷は自身が子供時代に憧れた大打者からの不意の質問に苦笑いしながら、こう答えた。
「日本の田舎というか、チームも少ないようなところでやってたんでね。日本の人たちからしても、(どこで生まれようが)頑張ればこういうところでできるんだっていうのは証明できた」
大谷は岩手県の水沢市(現奥州市)の出身だ。大谷の3歳上で、花巻東高校の先輩でもある菊池雄星も同県の県庁所在地である盛岡市の出身である。そして、千葉ロッテの佐々木朗希もまた陸前高田市に生まれ、2011年の東日本大震災後は大船渡市に移り住んだ。
高校時代の大谷について花巻東高校の佐々木洋監督が「しばらく雄星のような才能とは出会えないと思っていたが、入れ替わりで翔平が入学してきた」と語ったというのは有名な話だが、そのわずか7年後に今度は令和の怪物が沿岸部に出現した。
なぜ岩手にはこれほどの短期間で、不世出の才能が3人も生まれたのだろうか。
大船渡高校で佐々木を指導した國保陽平氏に聞いた。彼は県下一の進学校である盛岡第一高校を卒業後、筑波大学に進学し、米国の独立リーグも経験した野球指導者だ。2021年に大船渡高校の監督を退任し、この4月からは母校に転任。硬式野球部の副部長を務めている。
「高身長で、晩成型の子が野球を辞めずに続けられる環境がある。つまり、成長を急がせず、無理に試合にも起用せず、成長を待ってくれる。花巻東時代の大谷選手もその好例ですよね。身体が大きい、速い球が投げられるというだけで、無理に試合に起用するような空気が関東や関西、九州の学校にはあるのかもしれない。その点、岩手の人は全国的に見ても明らかにおおらかですから」