ライフ

私たちは『水戸黄門』に厄介な呪いをかけられているのか

「水戸黄門最終回スペシャル」の撮影を終え、花束を手に記念撮影する(前列左から)佐々木助三郎役の東幹久さん、水戸光圀役の里見浩太朗さん、渥美格之進役の的場浩司さん、(後列左から)風車の弥七役の内藤剛志さん、八兵衛役の林家三平さん、楓役の雛形あきこさん(京都市右京区の東映京都撮影所・時事通信フォト)

「水戸黄門最終回スペシャル」の撮影を終え、花束を手に記念撮影する(前列左から)佐々木助三郎役の東幹久さん、水戸光圀役の里見浩太朗さん、渥美格之進役の的場浩司さん、(後列左から)風車の弥七役の内藤剛志さん、八兵衛役の林家三平さん、楓役の雛形あきこさん(2011年11月・京都市右京区の東映京都撮影所・時事通信フォト)

 創作物がそれに親しんだユーザーの精神性に与える影響は決して小さくないだろう。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 何かと話題の「ジェンダーバイアス」。人や社会が無意識のうちに、性差や男女の役割などに対して思い込みや偏見を持ってしまうことを言います。「家事や育児や女性の役割」「男は常に強くあらねばならない」などなど。それが自分を縛り付けて、悩みや苦しみの原因になっているケースは少なくありません。

 先日も『ドラえもん』のしずかちゃんが、高い能力があるけど一歩下がった存在にとどまる描き方をされていると指摘した記事が注目を集めました。「そもそも脇役だし」という無粋な突っ込みはさておき、男性を苦しめている構造も解説しつつ、ジェンダーバイアスの怖さをわかりやすく説明してくれています。たいへんためになりました。

 幼い頃に見たアニメやドラマは、間違いなく私たちに大きな影響を与えているでしょう。ジェンダーバイアスを含むさまざまなバイアスの呪縛から抜け出す第一歩は、その正体を浮き彫りにすること。幼い頃から見てきた多くの作品から、ここでは『水戸黄門』を例にあげて、受けているかもしれない影響について考えてみます。

 映画では戦前から『水戸黄門漫遊記』は、時代劇の定番でした。テレビでも草創期から何度もドラマ化されましたが、馴染みが深いのは1969(昭和44)年からTBSでスタートしたナショナル劇場の『水戸黄門』です。このシリーズでは、東野栄治郎が初代の黄門様を足掛け15年にわたって務めました。その後も、西村晃、佐野浅夫、石坂浩二、里見浩太朗、武田鉄矢(BS‐TBS)が黄門役を受け継いで全国を漫遊しています。

 超人気シリーズだっただけに、おもに中年世代や老年世代の思考や価値観にさまざまなバイアスを与えているはず。可能性のある項目をあげてみましょう。

【私たちが『水戸黄門』にかけられているかもしれない5つの呪い】

その1「権力者や高い地位の人には反射的にひれ伏すのが当然である」
その2「権力者の地位は安泰でどうがんばっても一発逆転は起きない」
その3「部下にある人は現状に満足していて上司を絶対に裏切らない」
その4「儲かっている大店は裏で政治家とつるんで悪事を働いている」
その5「美しい女性が湯船につかっている光景は極めて魅惑的である」

 それぞれ、ざっとご説明しましょう。まずは1つ目の「権力者や高い地位の人には反射的にひれ伏すのが当然である」。ドラマでは、残り5分ぐらいのところでおもに格さんが印籠を出すと、それまで反抗的だった悪者たちも反射的にひれ伏します。

 そんな光景を見ていたせいで、私たちの多くは「政府の言うことにはおとなしく従うのが身のためである」「地元選出の『おらが先生』は何でもいいから持ち上げたほうが得」という考え方が身に付いたのかもしれません。まったくもって、迷惑な話です。

 2つ目の「権力者の地位は安泰でどうがんばっても一発逆転は起きない」はどうか。ドラマでは、追い詰められた悪人がヤケクソになって「ええい、たたき斬れ」と叫んでも、たちまち助さん格さんたちにやっつけられてしまいます。

 私たちの多くが「権力に逆らっても仕方ない」「世の中の仕組みなんて簡単には変わらない」と無意識のうちに思ってしまうのは、そんな構図を長年にわたって見せつけられたせいに違いありません。ドラマを見ているときは、平民側ではなく権力者の黄門様たちに感情移入しがちなのも、考えてみたら不思議です。政権与党や大物政治家を支持することで、自分も偉くなった気になれる人が多いのは、もしかしたらこのドラマの影響かも。

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
リモートワークや打合せに使われることもあるカラオケボックス(写真提供/イメージマート)
《警視庁記者クラブの記者がカラオケボックスで乱痴気騒ぎ》個室内で「行為」に及ぶ人たちの実態 従業員の嘆き「珍しくない話」「注意に行くことになってるけど、仕事とはいえ嫌。逆ギレされることもある」 
NEWSポストセブン
「最長片道切符の旅」を達成した伊藤桃さん
「西国分寺から立川…2駅の移動に7時間半」11000kmを“一筆書き”した鉄旅タレント・伊藤桃が語る「過酷すぎるルート」と「撮り鉄」への本音
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱親方と白鵬氏
旧宮城野部屋力士の一斉改名で角界に波紋 白鵬氏の「鵬」が弟子たちの四股名から消え、「部屋再興がなくなった」「再興できても炎鵬がゼロからのスタートか」の声
NEWSポストセブン
環境活動家のグレタ・トゥンベリさん(22)
《不敵な笑みでテロ組織のデモに参加》“環境少女グレタ・トゥンベリさん”の過激化が止まらずイギリスで逮捕「イスラエルに拿捕され、ギリシャに強制送還されたことも」
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
荒川静香さん以来、約20年ぶりの金メダルを目指す坂本花織選手(写真/AFLO)
《2026年大予測》ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート 坂本花織選手、“りくりゅう”ペアなど日本の「メダル連発」に期待 浅田真央の動向にも注目
女性セブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン