余った歯医者が患者を取り合う
受けるほどに悪化する「受けてはいけない歯科治療」がここまではびこる理由はどこにあるのか。岩澤さんはその背景には「歯医者余り」の現実があると指摘する。
「限られた患者を、過剰に増えた歯科医が奪い合っているという現状がある。というのも、昭和時代は『虫歯の洪水』といわれたほど日本人に虫歯が非常に多く、歯科医不足が社会問題となりました。対策として、私立歯科大をどんどん新設するなどして、大量の歯科医を養成したのですが、現在は虫歯の患者が大幅に減少した。一方、開業した歯科医には定年がないので、高齢になっても引退せずに頑張っている人も多い。そのために毎年、歯科医とデンタルクリニックの数は右肩上がりに増えていき、“歯医者の過剰時代”ともいえる状況になってしまいました」(岩澤さん)
供給が需要を上回れば、経営の厳しい歯科医院も出てくる。そうなれば、得られる額が限られる保険診療よりも大きな収益につながる自費診療をすすめるのは当然のなりゆきだろう。スウェーデン・デンタルセンター院長の弘岡秀明さんがこう語る。
「特にインプラントは“金の成る木”。患者のことを思って歯を抜かずに一生懸命治してもわずかな収入にしかならない一方で、インプラントに誘導すればいきなり50万円の収入になる。はびこるのも当然です」(弘岡さん)
さまざな治療を幅広く提供することで患者を増やそうとする歯科医院も少なくない。患者の立場からすれば認定医・専門医・指導医などが肩書に入っている医師ならば信頼できるのではないかと考えてしまうが、岩澤さんは「分野によってはまるで意味がない」と一刀両断する。
「特にインプラント関連の学会は、おのおのの基準で専門医や認定医の称号を出しており、短い研修に参加するだけで得られる資格も多い。つまり認定医にもかかわらず初心者という冗談のような現実があるということです」(岩澤さん)
※女性セブン2023年6月15日号