配信が開始された直後は、「あの江川がYouTuberに?」と誰もが驚いたことだろう。2022年1月、巨人のエースとして活躍した江川卓氏(68)のYouTubeチャンネル「江川卓のたかされ」が開設された。「たかされ」とは江川氏の座右の銘である「たかが野球、されど野球」の略だ。
プロ野球OBの“YouTube参戦“は珍しくないが、江川氏のキャラクターとネットという意外な組み合わせは業界でも大きな注目を集めた。江川氏にとっても、YouTubeは魅力あるメディアに映ったようだ。江川氏が語る。
「これまでテレビの番組で企画会議から参加させてもらっていましたが、『尺』というものに制限されて、いい企画でもボツになるケースがありました。その点、YouTubeは尺を気にしなくていいので伝えたいことを全部流せる利点がある」
そのため、動画では江川氏の「あけすけな本音が聞ける」と視聴者から評判だという。そして何より注目すべきは、「テレビの特番か」と思わせるような内容だ。ゲストに“平成の怪物“松坂大輔氏(42)を迎えて大谷翔平の凄さについて語り合ったり、現役時代の最大のライバル・掛布雅之氏(68)が「空白の一日」の話題に切り込むなど超豪華。なかには再生回数が100万回を超える動画も出ている。
今日は何を訊かれるの?
さらに江川氏のチャンネルが独特なのは、「撮影のスタイル」にある。動画を制作している株式会社BLOCK代表の山本達裕氏が話す。
「『たかされ』チャンネルでは、事前の打ち合わせをしないんです。“ライブ感“を重視していて、江川さんには毎回カメラを回すまで一切、内容は伝えていません。スタッフもその日のお題だけを決めて撮影に臨んでいて、撮影のなかで江川さんとの質疑応答を深めていく形式を取っています」
『週刊ポスト』(2023年6月9・16日号)の企画で江夏豊氏と対談する1週間前(対談の様子は動画で公開。公開日は未定)、本誌が別の動画の撮影現場で待っていると、飄々とした江川氏がスタジオ入りし、「今日は何を訊かれるの?」とニヤリと笑みを浮かべながら席に座り、すぐに撮影がスタートした。
「江川さんの凄さは、理論もそうですけど瞬発力と卓越した話術と構成力です。視聴者を飽きさせないコツを理解されているので、番組が単調にならないよう笑いが起きるネタをポンと挟み込んでくる。そのタイミングが絶妙なんです。それを打ち合わせなしの“ぶっつけ本番“でやるんですから驚きますよ」(山本氏)
昭和の“怪物“は、YouTuberとして新たな挑戦を続けている。
※週刊ポスト2023年6月9・16日号