SNSやマッチングアプリで別人になりすまし、金銭を騙し取る「ロマンス詐欺」の被害が後を絶たない。被害者は年齢は中高年だけでなく、10代~20代の若年層にも広がっている。この犯罪について取材を続け、近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』があるノンフィクションライターの水谷竹秀氏がレポートする(全3回の第1回。本文一部敬称略)。
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「詐欺師め、呪い殺してやる」
「死ね死ね死ねくそ人間死ね死ね死ね」
いずれのメッセージも既読にはなっていなかった。これらはロマンス詐欺犯から「俺が騙した」という捨て台詞を吐かれた時に湧き上がった、反射的な怒りの返信だ。
「その時から手の震えが始まりました。ええ! 嘘でしょ! みたいな」
そう語る本田沙也香(28歳、仮名)は、取材の合間、ネイビーの洒落た帽子を被り続けていた。透明の保護眼鏡をかけ、明るい色の口紅が目立つ。第一印象は華やかなイメージだが、私が出会った被害者の中で、騙されたことを最も根に持っているように見えた。被害直後のLINEメッセージならまだしも、会話の中でさえ、詐欺師のことを「ヤツ」「クソだ」と罵った。
相手の名は「トニー」。写真の顔は眼鏡をかけ、クールで知的な印象だ。年齢は30代で、不動産投資家だという。
沙也香は日本人であるが、生まれは中国だ。中国人の両親は幼い頃に離婚し、母が日本人と再婚したのを機に中学生の時に来日した。母はその後、中国に戻ってしまい、沙也香は父とともに日本で暮らす。日本の大学を卒業後、2つの職場を経て、現在はIT系の会社に勤めているOLである。日本語の読み書きには全く問題なく、もちろん中国語もできる。中国にいる母と連絡を取るため、中国のチャットアプリ「WeChat」を使っていた。そのアプリを通じてトニーと知り合った。
「こんにちは」
中国語でのやり取りが始まり、間もなくLINEへ移行した。ある日、トニーは暗号資産の投資で儲かっているという話を始め、試しにやってみないかと誘ってきた。最初は少額で構わないからと、沙也香は5万円を元手に取引を始めた。すると6万円に増えた。
「元金を増やせば、利益はもっと大きくなるから」
これは儲かるかもしれない──。淡い期待と欲望の裏には、沙也香自身が置かれていた環境も影響していた。