SNSやマッチングアプリで別人になりすまし、金銭を騙し取る「ロマンス詐欺」の被害が後を絶たない。この犯罪について取材を続け、近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』があるノンフィクションライターの水谷竹秀氏が、被害に遭った28歳女性の「被害後の生活模様」をレポートする。(全3回の第2回。文中一部敬称略/被害に気づくまでを記した第1回から読む)
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「はあ。生きれない」──騙された直後に沙也香(28歳、仮名)はツイッターのアカウントを作成し、そう投稿した。チャットアプリ「WeChat」で知り合った「トニー」を名乗る相手から、暗号資産(仮想通貨)の購入費用と出金手数料を合わせて、総額1100万円を騙し取られた。そのうちの200万円が父親からの借金だった。警察署に駆け込み、被害を報告するも、
「現状では泣き寝入りするしかないです」
「ネットで知り合ったどこの馬の骨とも分からない犯人の特定は難しい」
「口座の凍結ぐらいしかできません」
という説明を受けた。同じ暗号資産への投資でも、沙也香の場合は銀行口座への振り込みだったため、犯人が即座に引き出していなければ、口座凍結によって被害額を回収できる可能性はまだ残されている。一方、暗号資産を購入し、犯人が指定するアドレスに送付してしまった場合は、被害金の回収は不可能と言えた。
国際ロマンス詐欺を専門に対応している、東京投資被害弁護士研究会の金田万作弁護士が対応した事例では、暗号資産を送付した被害事案の相談については、これまでに現金を回収できたケースが1件もなかったという。
「暗号資産の場合は、暗号資産の送付アドレスを追跡していけば犯人の口座(ウォレット)がある取引所を特定することは可能です。ただ、その取引所が犯人の口座情報を開示してくれなければ、現金の差し押さえも個人の特定もできません。海外の取引所は弁護士などからでも開示に応じてくれず、ほとんどの場合海外の取引所が使用されているので、結局犯人の特定さえ困難です。だから暗号資産を購入した被害者には、被害金は原則、回収できないというお話はします」