3月のWBCで侍ジャパンを世界一に導いた栗山英樹監督が、5月末に退任。後任監督の人選が進められている。栗山監督は2016年には日本ハムの監督として大谷翔平(現・エンゼルス)らを擁して日本一に輝いた経験があるが、代表監督の後継候補にはNPBでの監督経験がない人物の名前も挙がっているのが興味深い。多くの識者が候補として名前を挙げるのが、日米球界で数々の記録を打ち立てた「イチロー」である。
現役時代にはオリックスでイチローとともに1995年のリーグ優勝、翌年の日本一に貢献し、引退後はオリックス、ソフトバンク、阪神でコーチを歴任した藤井康雄氏は、次期WBC監督について、「ありきたりかもしれませんが、一緒にプレーした経験を振り返っても、『イチロー監督』が面白いのではないかと思いますね」と話す。
「イチローなら、精神的な面で自らチームを引っ張っていくのだろうと思います。栗山監督が選手主導のスタイルというか、選手としっかりコミュニケーションを取りながらチームを作っていくやり方だったのとは、正反対の監督像になりますね。オリックス時代もイチローは言葉が少なく、プレーする自分の背中を見せてみんながそれについていくというパターンでした。引退後は高校野球の指導などをしていますが、それも現役時代のスタイルの延長線上の指導法に見えます。監督になれば、ドシッと構えて、そこに選手がついていくようなチーム作りをするんじゃないか。
新旧代表監督のスタイルが好対照ということになれば、それも面白いと思います。もちろん『イチロー監督』には話題性もあるし、単純にどのような監督になるのか見てみたい。世界で最もよく知られている日本人のひとりですからね」
本誌・週刊ポスト6月9日発売号では、「次のWBC監督は誰が相応しいか」を野球評論家20人に取材し、一挙掲載した。そこではやはり、イチローに期待する声は多かった。辛口評論で知られる江本孟紀氏もこう話す。
「後任監督はやはり、イチローがいいんじゃないでしょうか。アメリカ人やメジャーリーガーも、イチローのことはみんな知っている。WBCは国際大会なんだから、世界的に知られた監督のほうが注目はされますよね。イチローに1回ぐらい監督をやらせてやったらいいんじゃないですか。世界の野球を知っているのは強いですよ」
◆イチロー監督なら「誰をコーチに据えるのか?」
中日、西武、阪神で外野手としてプレーし、引退後は楽天の初代監督を務めた田尾安志氏も、「メジャーの連中もイチローが日本代表の監督なら一目を置くでしょう」と話す。
「高校生への指導を見ていても、あれだけ野球に対する熱があるわけですからね。『イチロー監督』を一度見てみたい。イチローが(監督として)やる野球ですか? それはなかなか想像がつかないですね。柔軟性があるので、その時のジャパンのメンバーをうまく使っていくのではないか。今回もそうですが、トップクラスの選手ばかりですから、自分のビジョンにはめ込むといより、選手を選んだうえで、“どういう野球をやろうか”ということになる。
ただ、これまでのボクの侍ジャパンに対する印象は、大きな打球がなかなか出ないというものだったが、今回のWBCを見ていたら大きいのも打てるようになってきた。今までの印象と違って、米国と対等に勝負できている。そういうチームになってきたところに、イチローのスピード・技術に長けた野球の要素が加われば、もっと強いチームになるのではないか。メジャーを見てきた選手だけに、侍ジャパンを正しい方向に導いてくれることを期待します」
同じく「イチロー監督」を推すのは、現役時代に“野村(克也)チルドレン”としてヤクルトでリードオフマンを務め、引退後はヤクルト、ソフトバンクでコーチを歴任した飯田哲也氏だ。
「イチローならトップ選手を集めてきたチームをまとめることができると思うし、そもそもイチローがどんな選手を集めるのか、そのメンバーでどのような野球をするのか見てみたい。あとは、オリックス関係が多くなるのかもしれないが、コーチとして誰に声を掛けるかも含めて、すべてに興味が沸きますね」
第1回、第2回のWBCでは、主力として侍ジャパンを世界一に導いたイチロー。とくに第2回大会決勝の韓国戦で優勝をたぐり寄せる決勝タイムリーを放った姿は、日本の野球ファンの記憶に鮮烈に残っている。そのイチローが今度は監督として「JAPAN」のユニフォームに袖を通し、世界一を目指す日がやってくるのだろうか。