WBCでチームを世界一に導いた栗山英樹監督が5月末をもって退任したことで、8月を目途に決まるとされる「次期監督」が誰になるのかが注目の的となっている。球界の御意見番OBに取材を進めていくと、ファンの度肝を抜くような“サプライズ”を期待する声も数多くあった。
3月のWBCでは、栗山監督のもとでロッテ監督の吉井理人氏が投手コーチを務めるという人事が注目を集めた。そうしたなかで、「現役のNPB球団監督が代表監督を兼ねる」というサプライズ人事案を口にしたのが、“ダンプ”の愛称で知られる阪神の元捕手で、引退後は横浜と阪神でバッテリーコーチを務めた辻恭彦氏だ。
「今回のWBCの貢献度は栗山監督が40%、大谷(翔平)が30%、ダルビッシュ(有)が30%といったかたちだったと思うが、やはり選手の上に行かない監督がいいのかなと思う。監督が先頭に立って選手を引っ張るというよりも、一歩引いて選手を前面に立てて戦える監督がベストなんでしょうね。それでいて、選手のことを把握していて、すべて知ったうえで起用できる監督がいいと思う。
そう考えた場合、ボクは岡田彰布(現・阪神監督)しかいないように思う。もちろん現役監督という障害があるにしても、岡田の代表監督を見てみたいよね。あの男は勝負の運を持っているし。あと、人たらしとまでは言わないが、選手がその気になってやるんだよね。ベンチに座っていて、表情がまったく変わらない。それがいい。他にも勝負運を持っている監督はいますが、喜怒哀楽が激しすぎる監督が多いからね。それだと選手が顔色見るようになって良くないんです」
今季から岡田氏が監督に復帰した阪神はセ・リーグで首位をひた走る。昨年の時点から投手力を中心に充実した戦力を有していただけに、結果に違いがあることから岡田采配が高く評価されているのはたしかだろう。辻氏が続ける。
「岡田・阪神の野球を見ていると、監督がベンチからサインを送っているのか、選手が自らの判断でやっているのかわからない。そこがいい。各選手がひとつでも先の塁を狙い、ファインプレーをする。理想の野球をやっているよね。岡田とは阪神時代に短期間ですが一緒にプレーしました。岡田が初出場したゲームでは、ボクの内野ゴロでランナーの岡田が頭から滑り込んで逆鉾みたいな形でベースを通り越していったことがあった。この時に岡田が首を痛めたという記憶が残っていますが、静かにハッスルプレーをする選手でしたね。監督としても静かにハッスルプレーをしているように見えます」
本誌・週刊ポスト6月9日発売号では、「次のWBC監督は誰がいいか」を野球評論家20人に取材した。御意見番たちの意見のなかには、「岡田代表監督」のような驚きの人選も少なからず含まれていた。
◆招集の声をかけられて断われないのは…
現役時代はヤクルト、巨人、阪神で4番を打ち、引退後は阪神でコーチを務めた広澤克実氏は、元巨人の“怪物”江川卓氏の名前を挙げた。
「WBCの歴代監督というのは、東京プールを主催する読売新聞本社が主導して決めてきたと一面があると理解しています。監督だけでなく、コーチもそうでしょう。ベーブ・ルースの時代から日米野球の興行権は読売本社が持っていますからね。そう考えると、次期監督選びにも読売サイドの意向が働くと思われます。候補に高橋由伸(前・巨人監督)が挙がっているのもそういうことなんでしょうが、そういう選択肢になるのなら江川卓さんでいいんじゃないかと思いますね。私は江川さんと同じ栃木県の高校出身なので、郷土の大先輩という私情も入りますが、江川さんの指揮する野球を見てみたい」
広澤氏が期待するのは、江川氏の「求心力」だという。
「今回のWBCの優勝は大谷翔平が出場したことに尽きます。その大谷を呼べたのは栗山監督で、それは栗山監督だからこそできたことでしょう。もちろん次回も大谷が呼べるに越したことはないが、3年後にどこのチームに属しているかはわからず、その球団との契約もありますからね。その点、江川さんは少なくとも日本でプレーする選手のなかではベストメンバーを選べるのではないか。江川さんに声を掛けられて断わる選手はいないでしょうからね」