1980年代までにつくられた建造物は、日本全体が若者の国だった時代の基準で作られてきたため、高齢化率(65歳以上人口の割合)が28.4%の現在では、段差や階段、アクセスなど人々がその街で生活しづらくなってきた。それに伴い、生活者に対して交通サービスが到達する最後のあと少し、いわゆる「ラストワンマイル」が年々、困難さを増している。ライターの小川裕夫氏が、高齢化率が上昇したニュータウンでの、乗り合いサービスや自動運転モビリティの試みについてレポートする。
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5月12日、厚生労働省が2020(令和2年)度の調査に基づいて、全国の市区町村別の平均寿命を発表した。5年に1度実施されるこの調査は2000年から始まり、5回目の今回、川崎市の麻生区が男性84歳、女性89.2歳で男女ともに初めて全国トップになった。
長寿であることは慶賀すべき話だが、他方で長寿であるがゆえの問題も発生している。それが、地域住民の足の確保だ。
高齢化に対応した乗合サービス
高度経済成長期、東京は人口が急増。東急総帥の五島慶太は田園都市づくりを夢見て、東急沿線の多摩丘陵を切り拓いて住宅地を開発。このときに造成された住宅地は多摩田園都市と名づけられた。
また、東急だけではなく日本住宅公団(現・都市再生機構)も川崎市麻生区や隣接する横浜市青葉区で大規模な開発・分譲をしている。日本住宅公団は、多摩丘陵を切り拓いた一帯に43棟、総戸数1578戸もある虹ヶ丘団地など多くの団地を建設。現在も川崎市麻生区・横浜市青葉区には団地群が点在しているが、1980年代頃までに建設された団地の5階建て物件には、少しずつ設置工事がすすめられてはいるがエレベーター無しの住棟がまだ多い。高齢の入居者は外出にも困難を要する。
こうした事態が深刻化してきた昨今、行政や住民は動き始めている。麻生区片平地域の住民がコミュニティ交通推進協議会を立ち上げ、2022年10月から乗合型のコミュニティ交通サービスの実証実験を開始したのだ。
「同実験は、地元の横浜国立大学や神奈川トヨタ自動車などの協力も得て、ワンボックスタイプの乗用車で実施しました。サービス開始当初は1日の平均利用者は20名程度でしたが、住民に周知されるにつれて利用者が増えていき、終了間際には40人前後まで利用者が増えました」と話すのは、川崎市まちづくり局交通政策室の担当者だ。