通算215勝を挙げ、「フォークボールの神様」と呼ばれた元中日のエース・杉下茂氏が6月12日に間質性肺炎のため亡くなっていたことがわかった。97歳だった。現役引退後に複数球団で監督やコーチを歴任しただけでなく、90歳を超えても中日の春季キャンプで臨時コーチを務めるなど、精力的に後進の指導に携わった。そんな杉下氏は、「日本のエース」へと成長したロッテ・佐々木朗希のフォークボールについて解説してくれたこともあった。
杉下氏には本誌・週刊ポストの取材にたびたび応じていただいていたが、最後の取材となった昨年6月はロッテ・佐々木に関する考えを語ってもらった。昨年4月に佐々木は史上最年少で完全試合を達成したが、6月には一時、登録抹消となり、その後も中10日の登板間隔などで勝ち星を積み重ねている状況だった。そんな佐々木が、「元祖フォークボーラー」の目からはどう見えているのか聞く取材だったが、杉下氏は開口一番、こう口にした。
「ロッテは大切に扱っていますよ。金田(故・金田正一氏)を超えるピッチャーになるのではないかと期待しています。ただ、金田は高校を中退してプロ入りし、2年目には350イニングですからね。本当に、がむしゃらに投げていた」
令和の時代になり、若い投手に無理をさせない育成法が主流となりつつある。そんな風潮について水を向けると、杉下氏はこう応じた。
「金田の場合は、(登板が多くても)疲労感がない。全身を使って投げているぶん、目いっぱいの力で投げることがないんですよ。佐々木君は肩の力で投げている。それに、ほとんど全員の打者に対して全力投球ですからね。そりゃ疲れる。それなりにお休みしないとまずいよね」
杉下氏は「佐々木君のフォークボールはこれからですよ。もっともっとよくなるでしょうね」としたうえで、こう続けた。
「それには、ストレートをどんどん投げること。あくまでも基本はストレート。フォークの投げ方はストレートと同じです。ストレートを投げているうちに、フォークは自然によくなっていく。フォークを磨こうと思うのではなく、少しでも速いストレートを投げることだろうね」