日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回はお茶の間でも人気の高い中国出身料理人の孫成順さんにうかがった。【全3回の第3回。第1回から読む】
* * *
言葉の問題は大きいと言うが、孫さんは料理のことはとても熱っぽく語ってくれる。
「日本はグルメさんがたくさんいて、食材は新鮮。いいものたくさんあります。でも、料理の作り方教えている人によっては、有名な人でも、ああこれじゃちょっと食材がかわいそうだな、もったいないなと思う。もちろん大体おいしいですよ? 味、しょっぱくなくて、薄くなくて、焦げてなければ、まあまずくはない。
でも僕がやればもっと、と思う。コクがあって深い味ができる。僕が日本で生活しているのは日本のみんなのおかげだから、もっとおいしい作り方を教えたい。
たとえばチャーハン。強火で作るチャーハン、あまりおいしくないです。シャッシャッシャッシャって鍋を大きく回すやり方、見たことあるでしょ。米がパラパラってなってる。そうすると米が冷めるし乾燥する。水分が飛ぶ。固くなっちゃう。サラサラは食感が良くない。口に入れたとき、米が熱くてしっとりしているのがおいしい。
よく、中華鍋ないとダメと思われるけど、うちの自宅はフライパンですよ。中華鍋ないです。火力も関係ない。ガスじゃなくても大丈夫。やっぱり腕と使い方」
シャッシャッ、パラパラ、サラサラ。料理の説明や表現にはそれらの擬音語、擬態語が欠かせない。
「ちょっと固いとカリカリ? 油の感じがあるときはサクサク? とかね、何回も何回も使って覚えました。ああこういうのがトロトロなのか、ドロドロは? みたいに、違いは難しい。さっぱりとあっさりも、似ているけどちょっと違う。『まろやか』『寝かす』『旬の食材を生かす』も最初分からなかったけど、2回、3回使って、合ってる? と思うようになった。分かんないと漢字に書いてね、何日も頭の中に入れると大体覚えます。料理の言葉はね」
確かに、擬音語、擬態語は、面白いけれど意味をつかむのが難しい。バリバリ、パリパリ、さらさら、ざらざら……濁音のほうが重い感じが出る、感触が良くないことをあらわしたいときに使う、など特徴はあるが、日本語を教える時の悩みどころのひとつでもある。仕事に直結する言葉だからこそ、孫さんは「何日も頭の中に入れて」覚えたのだろう。