大谷翔平への「アドバイス」
2016年12月には、90歳を超えた杉下氏に健康の秘訣について聞いたことがあるが、こんな風に話していた。
「90歳になってですか? 何も変わらないね。とうとう90歳になっちゃったんだというだけ。周りから? 別段ないですね。ゴルフ場では周りのお客さんから“杉下さんはたしか90歳ですよね”と言われることが多い。“そうですよ”と返すと、“杉下さんの歳までゴルフができるように目標にします”と言われます。何でもいい、人の目標になれることは嬉しいですね」
当時、杉下氏は2つのゴルフコースでメンバーとして月例競技に参加していた。
「Bクラス(ハンデ13以上)なんですが、それぞれのコースの月例に出ています。そのほかに老人杯とかがあれば出ている。だから月に2~3回はラウンドしていますね。毎回エイジシュート? それは無理な話でありまして、ゴルフはそんなに甘いスポーツじゃない。夏は1か月ほど軽井沢へ避暑に行ますが、ゴルフはその時期がもっと多いですね。運動のために練習場に行ったり、ラウンドしたりで避暑どころか、忙しいぐらいです。
睡眠時間や食事メニューとかには無関心なんですよ。出されたものを全部食べる。あれが食べたいこれが食べたいという注文はしない。長男の家族と一緒に住んでいるから、助かっています。寝込んだこともないですからね」
90歳を超えても健康そのものだった当時の杉下氏は「残念なのは、仲間に先立たれてばかりになること」とも話していた。
「一緒に野球をやってきた仲間がみんな亡くなって、オレだけかと思いながら球界のイベントやOB会に出ている。そこで昔はこうだったなぁ……と話せる相手がいない(苦笑)。荒川博君(元巨人打撃コーチ)もそうだけど、悲報を聞くのはみんな後輩たち。寂しいことだよね。野球をやってきた先輩たちは70歳の前半で亡くなることが多い。プロで野球をやってきた人はかなり心臓に負担がかかるので、私も寿命は短いだろうなという覚悟はしていたが、長生きさせてもらっている。私はそういうことを考えずに、のほほんと来たんでしょうね」
そして、こう付け加えるのだった。
「それでも長く生きているといろんなことがありますね。日本ハム(当時)の大谷翔平君のような突拍子もない選手が出て来るんだからね。ボクはテレビを見て楽しんでいますよ。日本人で165キロを投げて、ドーム球場の天井に打球をぶつけ、二刀流として活躍するなんてね。ただ、大谷君は165キロを投げていますが、そのストレートに対してコントロールがなく、ストレート自体の伸びがない。少し手首でボールをひっぱたくイメージで投げると、もっともっと素晴らしいピッチャーになると思う。もちろん大谷君のスライダーとカットボール、スピリットなど変化球は超一流です。腕の振りを遅くして速い球を投げられるようになれば、大谷君は誰も打てないだろうね」
90歳を超えてもなお一人の「野球小僧」だった杉下氏。心よりご冥福をお祈りいたします。
◆取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)