【著者インタビュー】小佐野彈さん/『ビギナーズ家族』/小学館/1980円
【本の内容】
教員をし、2年後には同業の女性と結婚を予定していた哲大。中堅ゼネコングループを経営するセレブ一家に生まれ、ゲイであることを世間に明かして企業経営者とエッセイストとして活躍する秋。哲大と秋は、バーで偶然同席したのをきっかけに交際し同棲生活を送っていたが、秋の実父・瀬木が急逝したことで急変する。瀬木に2歳の異母弟・蓮がいたことが発覚、秋は蓮の後見人となって哲大と「家族」になることを決め、自身も通っていた名門私立小学校への受験を試みる。そして始まる“ママ友”をはじめとする世間の冷たい目との闘いや、あまりにも正しく圧倒的な力を持つ秋の母・知香との愛憎、小学校受験の生々しい裏側など……先が気になってページを繰る手が止まらない、新しい家族小説。
「面白い」って言われるのがこんなにうれしいことだとは
歌人で、小説家でもある小佐野彈さん。読者の中には小佐野という名字でピンとくる人もいるだろう。国際興業創始者で「ホテル王」と呼ばれた小佐野賢治は大伯父にあたり、現在は会長職に退いているが、小佐野さんも起業した実業家である。
『ビギナーズ家族』は、生まれ育った環境がまったく違う秋と哲大の男性カップルが、秋の異母弟にあたる2歳の蓮を引きとり、手探りで家族のかたちを模索する。時にぶつかり、蓮の名門私立小学校受験にも挑む。
書き下ろしでエンタメ小説を発表するのは初めて。インタビューの冒頭、「面白かったです」と言う編集者の言葉に顔をほころばせた。
「短歌の世界って、『面白い』と言われることはまずないんで。これまで書いた小説も、自伝的だったり、テーマ性を問われるものだったりしたので、『面白い』とはまた違う評価のされ方でしたから。完全にフィクションとして書いたこの小説を出して、『面白い』って言われるのがこんなにうれしいことなんだなって改めて思いました」
大人たちに「面白い」と言われることが何より好きな子どもだったという。小説を書くようになったのも、作家の林真理子さんから「彈くんは、そんなに話も面白くて家族もすごいんだから小説書きなよ」と言われたのがきっかけだったそうだ。
秋たちが2歳の蓮を引きとり、秋の母校である小学校の受験をめざす、という小説の構想はどこから生まれたのだろう。