健康のために続けている「運動」が、身体に思わぬ負担をかけていることもある。激しい運動は「命取り」になるリスクがあるので注意が必要だ。
「われわれの医学研究で、運動には年齢に即した最適な“運動の質(=運動強度)”があると明らかになりました。年齢によっては運動強度が強すぎる激しい運動はかえって健康を害する恐れがあり、逆に弱すぎる運動はやっても効果がないこともあるとわかったのです」
そう語るのは、東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利医学博士。「われわれの研究」とは青柳氏の出身地でもある群馬県中之条町で、65歳以上の5000人を対象に行なわれた「中之条研究」を指す。
対象者に「中強度の運動」を指導したところ、9割以上の高齢者に健康改善が見られ、さらに10年後も健康が維持できていたという。「中之条の奇跡」と呼ばれるほど目覚ましい結果を残した。そもそも、高齢者にとって負荷の大きい運動はリスクが生じやすい。
「特にジョギングなどの有酸素運動をする場合は、ハードになりすぎないことが大事です。1990年代中盤以降、運動をしすぎた高齢者の免疫機能は下がり、むしろがんなどの病気にかかりやすくなってしまうことが各国の研究で明らかになってきました」(同前)
激しい動きで認知症リスク
「激しい運動が病気を招く」とはどういうことか。
「ハードな運動は活性酸素を過剰に生成させ、細胞や遺伝子を傷つけます。加齢に伴い免疫機能が低下すると、傷ついた細胞や遺伝子の修復が追いつかず、老化が促進される。すると様々な生活習慣病を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中など命にかかわる事態にもつながります。また、不完全に修復された遺伝子は、がんや認知症の発症リスクにもなります」(同前)
一方、「中強度の運動」には新陳代謝の活発化や心肺機能の強化をはじめ、降圧作用・血糖値の降下作用が得られるなど、様々な健康改善効果があることがわかっている。
「中強度の運動こそ、健康長寿を実現するカギと言っても過言ではありません。代表的なのは早歩き。中強度の早歩きのイメージは、『ぎりぎり会話できる程度』で歩くこと。普段より拳ひとつ分ほど歩幅を広げて歩くのがポイントです」(同前)