林:そうですね。でも書き文字だと、その階層構造がメタ的にわかる。
中野:ええ、この階層構造を認識しないと、自分がバイアスにはまり込んでいることがわからず、自分の考えは無謬であるという無自覚な確信のもとに生きることになります。読書や日記などの習慣があって書き文字に慣れている人の方が、メタ認知はしやすいでしょう。
林:実は、将来はロボットがそういうメタ認知や言語化の補助をしてくれるんじゃないかと考えているんです。ぼくらは日常的には「どの仮説をもとに話しているか」をいちいち定義して会話したり思考したりしないけれど、ずっとそばにいるパートナーのロボットがぼくらを見守り、必要なときにフィードバックしてくれると、人間の言語化能力も飛躍的に上がり、メタ認知も促進されるんじゃないかと。
中野:脳のワーキングメモリー的な働きをしてくれるわけですね。
林:変化の激しい中では迅速なフィードバックがなければ社会についていけなくなると思いますが、第三者的なフィードバックをロボットが迅速に、低コストでしてくれるわけです。ロボットが人間を導くというと、皆、恐怖を感じてしまいますよね。導こうとしている先に誰かの作為やバイアスが入っているかもしれませんから。でも、ロボットが人間を導くのではなくて、フィードバックを通して、人間に気づきを与えてくれるんです。
中野:人の知能の高さって何だろうとよく考えるんですけど、知識の多さや処理の速さはもはや検索エンジンやオープンに使えるデータベースの方が優れていますね。だから、階層的に自己の思考を見て、物事を推敲できることがその要素の一つじゃないかと思うんですが、将来的にはそれもAIが補助してくれるかもしれません。
林:あくまで人間の気づきを最大化するのが、この子たちの報酬になると思うんです。