かつて写真が趣味だという人は、絞りと焦点の仕組みと使い方などを理解し、使いこなせる人たちのことだった。今では、カメラの機能が向上し、撮影枚数を制限せざるを得なかったフィルムからデジタルへと移行したため、もっと気軽に撮影を楽しむことが可能となった。急激に増えた撮ることに夢中になりすぎる人たちによって、人が集まる場所ならどこでもトラブルが起きている。ライターの宮添優氏が、お祭り、テーマパークなどで周囲の人を困惑させ、悩ませている撮影トラブルについてレポートする。
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線路内に侵入して電車を止めてしまったり、駅のホームに何十人も集まっては怒鳴り声をあげ一般人を驚かせたり、鉄道の撮影を目的とする鉄道オタク、いわゆる「撮り鉄」にまつわるネガティブなニュースが相次いでいる。ただ写真を撮るのに、なぜ犯罪や迷惑行為が起きたり、ケンカや揉め事に発展するのか、撮り鉄でない多くの人々は理解していない。しかし、似たようなトラブルは、「撮り鉄」が集まる以外の場所でも起きているという。
「今年は人出も増えそうなので、去年以上に気をつけなければなりません。怪我人が出たり、万一逮捕者なんかが出てしまえば、祭りの恥ですから」
北部九州在住の自営業・山口隆さん(仮名・50代)は、夏に開催される地元の古い祭りの実行委員を務めているが、2022年、観光客同士がつかみ合いの取っ組み合いをしているのを目撃したと振り返る。
「コロナ禍だったから縮小開催だったんですけどね、祭りの目玉である山車を撮影しようと、県の内外からカメラ愛好家が集まったんです。以前からカメラを持った観光客は多かったですが、この数年はさらに増えた印象で、特に中高年男性が多い。何十万もするカメラを持っていたり、レンズ代だけで車が買える、という人もいましたね。なぜケンカが起きたかというと、カメラマン同士の場所の取り合いなんですよ」(山口さん)
山口さんの地元に伝わる祭りでは、時に泥酔した参加者が乱入し、他の参加者とトラブルになることは以前からあった。だが昨年目撃したケンカは、山車とは全然別のところ、観光客たちが集まっていた場所で起きており「祭りの参加者と見物客がトラブったか」と不安になり、一目散に駆けつけたという。そこで山口さんが目撃したのは、共に70代くらいに見える男性同士が、髪を引っ張ったり顔を叩き合う異様な光景。二人とも高価そうなカメラを2台ずつ、それぞれ首からぶら下げていて、そばには2メートルほどありそうな脚立も倒れていた。
「聞けば、脚立の上で撮影していた男性に、もう一人の男性が”危ないから降りろ”と注意したそうなんです。実際その場所は狭い通りで、山車が家屋のギリギリを通る場所。迫力ある写真が撮れる人気の場所ですが、その分人も多い。そんな人の多いところで高い脚立を使われては確かに危険なんです。周りは騒然となり、山車の運行も一時中止に。警察が来ても、周囲がやめなさいと言っても、二人は最後までつかみ合っていました。一見、穏やかそうな老人だったんですが”カメラを持つと豹変”するんでしょうか。この数年、カメラ関係のトラブルが増えているような印象です」(山口さん)