香港で2019年に起きた反政府抗議運動を取材し、『香港デモ戦記』(集英社新書)の著書があるジャーナリストの小川善照氏(54)が6月30日、香港空港で入境を拒否された。香港で日本人ジャーナリストが入境を拒否されるのは初めてだという。当事者の小川氏がその一部始終についてレポートする。
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香港に向かうのは3年4か月ぶりだった。6月29日、成田空港を18時発の便で発ち、21時50分(現地時間)、すでに十数回は訪れている見慣れた香港空港の入境審査場に到着。そこで私がパスポートを出すと、係官の顔色が変わった。なにやら書類を出し始め、別の空港職員が呼ばれると、私は別室に連れて行かれることになったのだ。そして、その先には、「強制送還」という結果が待っていた。
私が最後に香港に入ったのは、2020年2月。コロナ禍によって国境が閉じられる寸前で、まだ多くの人たちが民主派のデモに参加していた。コロナウイルスの脅威と街頭で繰り広げられる警察とデモ隊の衝突が重なり、なんとも混沌とした街の様子だった。
2014年の雨傘運動以来、香港を毎年訪れていた私は、例年7月1日に現地に通っていた。香港は1997年7月1日に英国から中国へ返還された。7月1日はその記念日だ。当日は政府の記念式典もあるのだが、香港のメインストリートでは、通りを埋めつくすほどの数の市民によるデモが行なわれていた。親中派以外の様々な政治的立場の民主派の市民が参加する大規模なデモだ。
その前日、6月30日は、2020年に香港で反体制的な動きを封じるための強権的な国家安全維持法(国安法)が北京政府によって施行された日である。この日以降、そうした民主派によるデモはほとんど不可能になってしまった。この国安法は、国家転覆に繋がるすべてのことを禁じる法律であり、場合によっては中国本土での裁判で、最高で終身刑となることもある。今年の6月30日~7月1日は、その国安法施行3周年と、香港返還26周年が続く2日間となる。私は現在の香港の姿を知るための重要な2日間だと思った。また、コロナで変貌してしまった香港の姿も見たかった。
だが、大きな懸念もあった。私が香港に行く前、6月12日にはかつて香港で路上演奏をしていた日本人男性が入境拒否にあって強制送還となってしまっていたのだ。日本人の入境拒否は、昨年12月に香港デモの様子などを香港で撮影していた女性写真家の方以来、2人目だった。2人とも、香港では穏健な市民たちと交流していた普通の日本人にすぎない。
今回の香港旅行に際して、私の身にも、こうしたことが起こる可能性があると考え、持ち物は最低限度の必要なものだけにした。ただ、スマホだけは現地での行動などに必要なために、過去の写真などのデータがないものを新しく用意した。