全国的に中学受験者数が年々増加しており、放課後も受験に特化した学習塾や毎日ノルマとして課される膨大な宿題に追われている。遊ぶ時間どころか睡眠時間さえも充分にとれず、疲労をため込んでいる子どもは、決して少なくない。
一方で、子どもたちが笑顔いっぱいで自発的に学んでいる場所が、東京・三鷹にある。その名は『探究学舎』。代表の宝槻泰伸さん(42才)は、2022年に『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)に2度出演するなど、しばしば雑誌やテレビでも取り上げられているので、ご存じのかたもいるだろう。
オンラインと対面の授業が数コース用意されている探究学舎。そのなかでも特に人気の対面式授業「探究スペシャル」は、夏休みなどの長期休暇中を中心に開催。2日間計9時間にわたって行われる。参加者は子ども30人超とその親。小学校低学年から中学生まで、年齢も性別もバラバラだ。新幹線を使って参加した親子がいたほか、海外から駆けつけた親子の姿も。
「やっちゃん、おはよう!」と、どの子も威勢がいい。「やっちゃん」とは宝槻泰伸さんのこと。ここでは誰も泰伸さんを「先生」とは呼ばない。「先生が生徒に教える」という一方向的な学びではなく、「共に楽しみながら学ぶ」という双方向的な学びが行われているからだ。ほかのスタッフや指導陣も、愛称で呼び合う。
この日のテーマは「元素」。小学生に元素?と驚くかもしれないが、それは杞憂。子どもたちは興味関心さえ持てば、どんなジャンルも「もっと、もっと!」と学ぶことをやめないのだと泰伸さんは言う。
2日目は「元素カルタ遊び」からスタート。やっちゃんが話す特徴から、何の元素かを当てていくゲームだ。6人ずつ分かれた円卓には、元素が書かれたカルタが並んでいる。そのカルタを、子どもたちは注視する。
「この元素はお金の材料です。さて、なんでしょう?」
教室がざわめく。
「五十円玉や百円玉の材料になります」
「あっ!」
気づいた子どもたちがカルタに手を伸ばす。
「正解はNi、ニッケルだよね」
歓声に悲鳴。笑いに拍手。ツッコミもOKで授業は進んでいく。
「次の元素は、ヤバ〜イ!」
やっちゃんの言い方にドッと笑いが起こる。
「何がヤバイかというと毒。毒の元素といえば……」
あちこちでカルタを取る音。
「そう、ヒ素! Asだね」
またもや歓声や悲鳴でざわめく。やっちゃんが当てた子どもたちをたたえる声と拍手が教室に響き渡る。90分間の授業中、子どもたちの顔はイキイキとして、あくびをしたり勉強以外のことを始めたりすることはない。気づけばやっちゃんの話を聞き逃すまいと、自分の席を離れて前方に陣取る子どもがたくさんいる。今回、初めて探究学舎のスペシャル授業を受けたという小学5年生の男の子の母親は言う。