日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回は、ネットスラングも交えた多彩な日本語で文芸評論からコメンテーターとしてのテレビ出演まで幅広く活躍する、ドイツ出身のマライ・メントラインさんにうかがった。【全4回の第1回】
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マライ・メントラインさんの名前を初めて知ったのは数年前。芥川賞・直木賞の候補作を紹介し、受賞作を予想するWEBの記事を読んだ時だった。
書評家の杉江松恋さんとマライさんが対談する形でそれぞれの解釈を披露しながら、1作1作を深く掘り下げる。語彙の豊富さ、作品を説明する時の言葉の組み合わせの面白さ、思いもかけない視座と発想……なんてすごい、と(こちらは極めて単純な言葉で)圧倒され、マライさん、どんな方なんだろうとすぐ検索した。
小説だけではなかった。国際情勢、アニメ、ミリタリー。守備範囲の広さに比喩ではなく目を見張った。プロフィールを見るとドイツ北部のキール出身、高校の時に日本に留学した、とある。どんなきっかけで? どうやって学んだらここまで外国語を自在に使えるようになるのだろう?
取材当日、マライさんはひらがながあしらわれたすてきなシャツを着てきてくださった。ドイツにいらっしゃるマライさんのご両親は今、毎週ひらがなを10個覚える、というように、日本語を表記から学ばれているそうで、マライさんはお二人からこんな質問を受けることもあるという。
「『き』を書く時って、つなげるの? 離すの?」
日本人は気にせず読んだり書いたりしているけれど、印刷の「き」と手書きの「き」は形が違う。「さ」や「り」もそうだ。なんかいろんな形があるみたいだよね、どれが本当なの? とマライさんのご両親はおっしゃっているのだ。
ああ、その疑問、日本語学校でもすごくポピュラーですと言うと、マライさんは「私は『い』がね、難しかったんですよ」と話してくれた。「い」?