国内

藤井聡太七冠、驚異の「先手勝率10割」 残る一冠獲得を左右する「振り駒」の行方

今年度になって先手では8勝0敗の藤井聡太七冠(時事通信フォト)

今年度になって先手では8勝0敗の藤井聡太七冠(時事通信フォト)

 藤井聡太七冠が快進撃を続けている。7月3日には佐々木大地七段との棋聖戦5番勝負第3局に勝利。棋聖のタイトル防衛に王手をかけた。この日、先手番の藤井七冠は107手で勝利したが、今年度になって先手では8勝0敗。驚異の「勝率10割」をキープしている(7月6日時点、以下同)。

 一方の今年度の後手番は4勝3敗での勝率は.571と大きな開きがあるように見える。どういった違いがあるのか。将棋ライターの松本博文氏が解説する。

「そもそも将棋は先手番のほうが少しだけ有利なんです。プロ棋士の対局における先手番の勝率は52~53%なんですが、トップ棋士になるほど先手番の勝率がよくなる傾向だといわれています。というもの、トップ棋士ほど『差の広げ方』に長けているので、先手の利を生かして序盤のわずかな差を少しずつ広げて勝つパターンが多い。テニスはサーブをする側が有利で、サービス側がゲームを取ると『キープ』、レシーブ側が取ると『ブレイク』という表現をしますが、最近は将棋界でも先手が勝つとキープ、後手が勝つとブレイクという言い方をするようになりました。

 先手番のほうが1手先に指して主導権を握りやすいわけですが、藤井七冠の将棋は序盤のリードを生かす能力が抜群に優れているということ。よく『藤井曲線』と言われますが、人工知能(AI)の評価値が示す折れ線グラフが、序盤から少しずつ上昇カーブを描き、そのまま終盤で一気に上がって勝利に至る。もちろん、後手番が苦手とかではなく、今年度の5割台という勝率はまだ対局数が少ないだけで、対局を重ねれば上がっていくでしょう。先手番の勝率が抜群にいいから、目立ってしまうだけしょう」

 タイトル戦では第1局で振り駒によって先手後手を決め、第2局以降はそれを入れ替えていく。タイトル戦で藤井七冠を破るには、無敵状態である「先手番の藤井聡太」に勝つ必要があるわけだ。松本氏はこう言う。

「藤井七冠を相手に後手番を持った時に、どのような作戦を採用して、うまくリードできるかは他のトップ棋士たちにとってひとつのテーマになっていると言えるでしょうが、一発勝負のトーナメントはその日の振り駒で先手か後手かが決まるので、藤井七冠の対局相手が運良く先手番になる可能性もあります。

 先日の王座戦の挑戦者決定トーナメント2回戦では、藤井七冠と対局した村田顕弘六段が先手番を生かして主導権を握り、一時はAIの評価値が90%を超えるところまで優勢を固めて藤井七冠を追い詰めましたが、藤井七冠が終盤の勝負手を放って辛くも大逆転勝ちを収めました。トーナメントで後手番を引いたら藤井七冠も星を落とす可能性があるように見えました。王座戦のトーナメントの決勝戦では豊島将之九段と対局(日程未定)しますが、まずは先手番がどちらになるか注目です」

 夢の八冠独占への道筋を左右する“運命の振り駒”となるかもしれない。

※週刊ポスト2023年7月21・28日号

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン