対抗策もないまま、あの男がやってこないか、伊東さんやスタッフはビクビクしながら営業活動を続けるしかなくなっているが、こうした現状について、成人向け動画のベテラン監督・間宮二郎さん(仮名・50代)が苦言を呈す。
「こうした撮影トラブルは、インディーズとか同人モノと呼ばれる、プロではない人々による映像制作の現場で頻発しています。我々はほとんどの場合スタジオを使いますが、不要なトラブルを避けるためにも、外ロケの場合は必ず許可を取りますよ。彼らは経費削減のためなのか、許可も取らずゲリラ的に撮影する。夜景で有名な高級ホテル、子供もいるテーマパークや動物園など、やりたい放題。やられた側も気がつきにくく、気がついたとしても怖くて通報できない」(間宮さん)
筆者も、間宮さんが「目に余る動画」としてピックアップしたものを数本確認したが、映り込んだ親子連れの顔にモザイク処理がされていなかった。それだけでなく、親子が談笑する前でわいせつな内容のインタビューを行ったり、都内のターミナル駅内で、やはりわいせつな行為に及ぶ様子を映したものなど、まさにやりたい放題。中には、ホテル備品などを毀損する様子が映る場合もあり、自身で「証拠」を残しているような有様だった。
「連中に法律を守れとか言っても無駄です。そもそも違法な動画作品を違法に販売しているくらいですから、聞くわけがない。一部の連中は、逮捕されても懲りずにやっている。どうしようもありません」(間宮さん)
もちろん、ここで紹介したのはある種の特殊例かもしれないが、普通に生活していても、似たようなトラブルに巻き込まれてしまう例もある。都内在住の会社員・吉本留未さん(仮名・20代)は、同じマンション内の居住者がSNS上で大炎上したばかりに引っ越しを余儀なくされたという。
「過激な発言で炎上したユーチューバーみたいな男の人が、偶然同じマンションだったんです。警察も何度もきたし、夜中や明け方に外で花火が鳴らされたり、うちのポストにもその男の人に関するチラシが入れられていたり…。マンション内で不法に撮影された映像までSNS上で見かけ、夜も眠れなくなり引っ越したんですよ…」(吉本さん)
誰に相談しても「引っ越すしかない」と言われるばかりだったと振り返る吉本さん。交通事故に遭うような不運な出来事だと諦めて、対処法を学ぶしかないとすればあまりにも理不尽という他ない。だが、情報発信の手段は日々簡単になってきており、こうしたトラブルがさらに頻発する日は近いだろう。