いまから30年前のこと──日本の景気が狂ったようによかったバブル時代、特攻服をなびかせた不機嫌な不良少女たちが日本全国で暴れていた。そんな彼女たちがポーズを決め、グラビアページに君臨していた伝説の雑誌があった。レディースを主役にした専門誌『ティーンズロード』だ。
同誌を立ち上げた初代編集長の比嘉健二氏が上梓した第29回小学館ノンフィクション大賞受賞作『特攻服少女と1825日』は、彼女たちの「活字のマブダチ」としてともに過ごした濃密な5年間、そして特攻服少女らの今を綴った意欲作だ。
「なぜいま30年も前のことを書こうと思ったかというと、少し前にマツコ・デラックスさんのテレビ番組でレディースの特集をすることになって、資料を貸したりいろいろ協力したんです。そのとき、テレビの若いスタッフから『ちなみにこの、雑誌に出てる子たちってどこで“仕込む”んですか?』と聞かれた。レディースたちが本当にいたということを知らなかったんです。このままだと、彼女たちの存在はやがて誰にも知られなくなってしまう、だから書き残しておこうと思った」(比嘉氏、以下同)
『ティーンズロード』を「自分が手がけた中で、唯一誇れる雑誌だったこと」と語る比嘉氏だが、ほかにも『GON!』や『漫画ナックルズ』など人気雑誌を次々に立ち上げた敏腕編集者だ。
「だけど内容はどれもうさんくさいゴシップやエロ、反社会的勢力の話題が中心で、いつも『こんなものを作って、申し訳ない』と思ってた(苦笑)。だけど『ティーンズロード』だけは違う。といっても、メインコンセプトは“不良少年少女”。それのどこが誇れるんだよ、と世間一般の人は思うかもしれない。だけど当時、『ティーンズロード』は社会や学校からはみ出た子たちにとって、唯一の“心許せる仲間”でありたいと思いながら作っていた。もちろん彼女たちのことを全て理解して救ってあげることはできなかったし、それは商業雑誌の役目ではないといまでも思ってます。だけど関わってきた5年間は全身全霊でそんな少年少女達と向き合ってきた。そこに誇りが持てたんです」(比嘉氏、以下同)
創刊当初、比嘉氏は30代半ば。10代の少女たちの熱さと激しさに対峙する日々は、トラブルの連続だった。本書にはレディース同士の激烈な「ヤキ」の実態やチームを束ね上げる「総長」の苦悩、暗闇で竹刀を振り回す暴走族から思わず走って逃げたエピソードなど、普通に生きていたらなかなか体験できないさまざまな修羅場が描かれている。