座右の銘は「先入観は可能を不可能にする」。心に刻んだ言葉の通り、常識にとらわれることなく前人未踏の“二刀流街道”を切り開き続ける大谷翔平(29才)は、“不可能を可能にする”至高のメンタルを持っていた。
「なにごともバランスと思っているので。いいこともあれば、悪いこともある。意識的にいいことを考えるのは大事かなと思いますけど、常にポジティブでいようとは思っていません」
ピンチのときに気持ちをポジティブに切り替える方法を問われた大谷翔平は、かつてそう答えたことがある。
その言葉に、数々の歴史的記録を生み出し続ける大谷の秘密がある。投手と打者の二刀流はもちろん、たゆまぬ努力と練習により大谷は“二刀流メンタル”を手に入れた。
7月11日(日本時間12日)、メジャーリーグのオールスターゲームが行われた。一流選手ばかりが集まるなか、試合前からファンの視線をもっとも集めていたのは、やはり大谷だった。
だが、大谷が所属するロサンゼルス・エンゼルスのチーム状況は、良好とは言えない。主軸であるマイク・トラウト(31才)が左手首を骨折し、手術は成功したものの復帰は早くても9月以降だという。ほかの主力選手の負傷離脱も相次いでいる。
こうした厳しいチーム状況について聞かれた大谷は、落ち着いた表情でこう話した。
「状況的にはちょっと厳しいですけど、出ている選手はみんな頑張っていますし、切り替えて1勝1勝を積み上げていくしかないと思います」
自身も右手中指の爪が割れるなど決して万全とはいえず、7月4日(日本時間5日)の試合では6回途中を5失点で降板し、4敗目を喫した。
その試合後のインタビューで大谷は、「不安があったなかでの登板か」というマイナスにも捉えられる質問に対し、あくまで否定せず、的確な分析を口にした。
「もちろん100ではないですけど、全員が全員100%の状態で毎回登板しているわけではないですし。(中略)そのなかでピッチングをしないといけないので」
大谷のこうした言葉からは、単なるプラス思考ともマイナス思考とも異なる、特殊な思考法が見えてくる。精神科医の樺沢紫苑さんが解説する。
「感情と事実を一緒くたにせず、思い込みを取り除いて自分の置かれた状況やものごとをありのままに捉えて分析し、自分がやれることだけにフォーカスする。こういった考え方を“ニュートラル思考”と呼びます」
“気の持ちよう”などといった精神論ではなく、客観的分析に基づく思考法だ。
「たとえば練習をまったくせずに、“自分はできる! ホームランを打てる!”と気持ちばかり前向きでも結果はついてきません。根拠のない楽観主義でしかない。
目標を達成するには、さまざまな方法を試みて、失敗しながら問題を解決していく“トライ&エラー”から情報を得ることが大切です。その情報をもとに冷静に判断、分析することでベストな答えを導き出すことができます」(樺沢さん)