70代以上の女性の2人に1人がのんでいるとされる降圧剤。一度のみ始めると、生涯にわたって服用するケースもザラであり、10年、20年とのみ続けている人も少なくない。しかしeクリニック医師の岡本裕さんはそんな現況は「病院ファースト」だと一刀両断する。
「睡眠薬と同様、降圧剤の長期服用によって体調を崩している高齢者は非常に多いです。そもそも年を重ねれば血圧が高くなるのは自然なことなのに、生活習慣を考慮せず、しゃくし定規に『血圧を下げましょう』と本来ならば必要ないはずの薬を出している。その結果、血圧が下がりすぎて頭がぼんやりしているシニアの姿を見るのは日常茶飯事です。
また、数値が下がらなければ健康体であってもやみくもに薬の量を増やそうとする医師がいるのも問題です。実際、降圧剤だけで数種類も処方されていた患者もいましたが、服用をやめてからの方がはるかに元気になりました」
銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんは「適切な量の薬が処方されていない」と警鐘を鳴らす。
「一度薬が処方され始めたら、量が増えることはあれど、減ることはほとんどない。しかし年を重ねると腎臓や肝臓の機能が低下するので薬を排出する力が弱くなるうえ、体内の水分量が減るので同じ薬でも効きやすくなり、20年前と同じ量をのんでいれば血圧が下がりすぎて体調が悪くなる。
実際に60才と80才の体内を比較すると、水分量は30%くらい減少します。10年単位でのんでいるという人は、医師に用量が合っているか、確認してみた方がいいでしょう」
複数の種類がある降圧剤のなかでも特に注意すべきは利尿薬だと長澤さんは続ける。
「尿と一緒に塩分を排出して血圧を下げる薬なので、体の水分を奪い、脱水症状になることがあります。特にもともと体内の水分量が少ない高齢者にはリスクが高い。血圧が下がりすぎるうえ、いまの時期は熱中症にもなりやすくなるので要注意です。なかでもループ系利尿薬のフロセミド、アゾセミド、トラセミドなどは、作用が強力です。現在の高血圧治療のガイドラインでは、利尿薬は最初から選択する薬ではありませんが、きちんと理解しておらずいきなり処方する医師もいます」(長澤さん)
身勝手でずさんな医師や病院の対応によって必要ない薬をのみ続けなければならなくなっている現実がある一方、患者側に問題があるケースも少なくない。
「時々、『残薬はありますか』と尋ねると、『のみ忘れていたけれど、昨日全部のんだから大丈夫』と言う患者がいる。しかし規定量以上をのむのは血圧が一気に下がって低血圧になり、ふらついて転んだり、ひどい場合は意識がなくなったり、死に至ることもあるほど危険な行為であるため、絶対にやめてほしい。
また、そもそも高血圧は食生活の改善と運動によって治療が可能な病気でもあります。少しでも薬を減らすために日常生活でできることはないかと考えてみることも大切でしょう」(長澤さん)
※女性セブン2023年7月27日号