年を重ねるほどに病院に通う回数は増え、それに比例して薬の量も種類も、そして服用する期間も増えていく。そしていまや大抵の薬は、ドラッグストアやネット通販で24時間簡単に手に入る。だが、そこには大きな落とし穴があるとeクリニック医師の岡本裕さんは指摘する。
「薬は体にとって異物であり、どんな薬であっても副作用があるうえ、解毒・排泄する際は肝臓と腎臓に負担がかかります。さらに人体には同じ薬をのみ続ければより早く異物を解毒し排出しようとする働きが生まれ、耐性がついて次第に薬が効かなくなっていく。長期間にわたって服用し続けることは体にとって害悪しか生まないのです」
たった1種類の薬であっても、長期にわたってのみ続ければ弊害が生じるが、その種類が複数にわたればリスクがさらに上がるのは自明だ。現在、75才以上の約25%が7剤以上の薬を服用しているのが実態だが、厚生労働省の発表では、6剤以上の薬を同時に服用している人は副作用の頻度が高くなることが明らかになっている。
「現場でみていると、5剤以下でも弊害が出ている人が多いです。特に睡眠薬、便秘薬、降圧剤を同時に服用している人は多く、高齢者施設に入居してくる半数以上は、この3種を併用しています。なかでも、睡眠薬と降圧剤の組み合わせは危ない。両方ともふらつきや認知機能低下の副作用があるため転倒し、寝たきりになり、そこから認知症になるケースはいくつもあります」(岡本さん)
恐ろしいのは薬の副作用を病気の症状だと勘違いし、新たに病院にかかってさらに薬が増えていくことだ。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんが指摘する。
「薬の副作用で認知機能が落ちているだけなのに認知症やうつ病を疑って別の病院にかかり、薬をもらって来る『処方カスケード』は社会的にも大きな問題になっています。
また、複数の病院にかかればそれぞれの医師が『念のために』と鎮痛剤を処方していたりする。実際に以前、降圧剤に加えて、3種類の鎮痛剤をのんでいる患者がいました。複数の整形外科にかかるうちにどんどん鎮痛剤が増えて、3種類になってしまったようです。漫然と処方されているものを、『医師が出した薬だから』と一生懸命にのんでいた。
しかし、のみすぎなのは明らかだし、ご本人に『体が痛むことはありますか?』と聞くとまったくないという回答だったので、病院に相談して薬をやめました。すると今度は降圧剤が効きすぎて、低血圧になって倒れてしまった。高血圧は鎮痛剤の副作用だったのです」(長澤さん)
真面目に薬をのまないこと
薬が生む「負のスパイラル」にはまらないために、できることはあるのか。日本初の「薬やめる科」を開設した松田医院和漢堂院長の松田史彦さんはどんな薬も毒だという意識を持ってほしいとアドバイスする。
「もちろん、頭痛や便秘などがまんできないほどつらい症状が出たときに、薬をのむことは否定しません。病気の治療のためにのまなければいけないこともあるでしょう。でも常に、“いまはこの薬が必要だけど、依存しないようにしよう”という意識を持って、やむをえないときだけ使うようにする心がけを持ってほしい。
私は患者さんに“薬を真面目にのむな”と伝えています。大切なのは、症状が治まっているのに、変に習慣化して毎日のように頭痛薬や便秘薬をのんだりしないことです」(松田さん)