試合終了の瞬間、國保氏の目には涙が
試合終了時の涙
盛岡一戦で3失点した怜希は、一度、センターの守備に就くも、5回でベンチに下がった。中心選手の怜希を下げたことは、何かしらのアクシデントが起きたのかもしれない。國保氏の顔色が変わった。
「怜希は足も速いですからね。たとえ投げられなくても、怜希の足はチームにとって武器になる。(ベンチに下がった理由が)肉離れとかじゃなければいいんですが……」
選手の体調管理に人一倍気を遣う國保氏は、心配そうに相手ベンチにいる怜希の姿を探していた。
試合は3対0と盛岡一がリードしたまま進んで行く。相手ベンチには、怜希以外にも、2019年のメンバーの弟が複数いる。大船渡は、次々とメンバーを入れ替え、文字通りの全員野球で食い下がろうとしてゆく。
そして、いつしか國保氏は大船渡ナインのプレーのほうに一喜一憂するようになっていく。好プレーには「よし!」と歓喜の声を漏らし、タッチアップを怠った2年生のプレーに落胆する。9回表にようやく、11本目の安打で作った無死二、三塁のチャンスで大船渡は犠牲フライで1点を返す。だが、最後は4番の上野樹が投手ゴロに倒れ、試合は3対1で盛岡一が勝利した。
サイレンが鳴り響く中、國保氏の目が真っ赤に染まっていた。甲子園まであと一歩に迫った2019年夏でさえ、一度も涙を見せなかった國保氏が、盛岡一が勝利したにもかかわらず、泣いていた。
「泣いていたら一高の子たちに失礼ですよね。ただ、頑張ってきた(大船渡の)2、3年生のことを思うと……」
それは思い出の詰まった大船渡に対する惜別の涙だろう。
國保氏が副部長を務める盛岡一は、翌22日の準々決勝で盛岡四に勝利し、24日の準決勝では花巻東と対戦する。同校は4年前の決勝で佐々木朗希が登板せずに敗れた相手だ。國保氏にとっては因縁の相手となる。