元気に自立して過ごせる期間を「健康寿命」というが、それに欠かせないのが「耳」の健康だ。食べ物を見直すことで耳の健康を維持するアプローチがある。管理栄養士の望月理恵子氏が指摘する。
「耳の老化予防にいい栄養素の代表はビタミンB12です。加齢が原因で起こる難聴は、老化による神経機能の低下や耳付近の血管の血行不良によって進んでいきます。神経の修復に寄与し、血行をよくする栄養素としては、ビタミンB群のなかでもB12による効果が期待できると言われています」
ビタミンB12は野菜や果物にはほとんど含まれず、肉や魚、貝類などに多く含まれる。アサリやシジミ、サンマ、レバーなどが代表的な食材だ。
望月氏は「食物から効率よく摂取するには、午後早めの時間帯がいい」と続ける。
「栄養学の観点から人間の体内時計を研究する学問である時間栄養学では、正午から午後1時くらいまでの時間帯がビタミンB12を吸収しやすい時間帯とされます。お昼に刺身定食や海鮮丼などを食べることで効率よく摂取できると考えられます」
ビタミンB群はビタミンB12のはたらきをサポートするため、ビタミンB1、ビタミンB6なども補助的に摂取することが望ましいという。B1は豚肉、B6は魚介類などに多く含まれる。
また、不足すると神経感覚障害を引き起こす亜鉛も聴神経に必要な栄養素で、亜鉛欠乏が難聴の原因のひとつになる。牡蠣や納豆、卵などから摂取することを心がけたい。
疲労をやわらげ、抗酸化作用のあるビタミンCやビタミンEも必須の栄養素だ。
「蓄積されたストレスや疲れが血行を悪くし、耳の老化や難聴につながります。ストレスから体を守るホルモンの生成につながるのがビタミンC、細胞の酸化を防ぐのがビタミンEです」(望月氏)
ビタミンCは緑黄色野菜や果物から、ビタミンEはごまやうなぎなどから摂取できる。
一方、難聴は生活習慣病と密接な関係にある。
「糖尿病や脂質異常症など生活習慣病は動脈硬化につながり、耳の血流も悪化する。動脈硬化の原因となる中性脂肪を減らす食材も耳にいいと考えられています。オメガ3不飽和脂肪酸であるEPAは血管を丈夫にし、血液の流れを改善して動脈硬化を予防する効果を期待できます。アジ、イワシなどの青魚に多く含まれます。
反対に糖質の過剰な摂取は生活習慣病を悪化させ、耳にもよくない。生活習慣病の予防を意識した食生活が求められるのです」(望月氏)
バランスの取れた食生活は、耳の健康にもつながるのだ。
※週刊ポスト2023年8月4日号