「はたらけど はたらけど猶 わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」と歌人・石川啄木がうたった時代、日露戦争(1904~1905年)の戦勝の高揚はその瞬間だけで、庶民は増税と急激な物価上昇によって追いつめられていた。その後、全国で大規模な労働争議やストライキも相次いだ。それから100年以上が経ったいま、働いても生活が楽にならない日本の庶民は、何を望んでいるのか。雇用と労働、生活について取材を続ける日野百草氏が、コストコなど外資による高時給によって実現されるかもしれない働き方について考えた。
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「ガソリンを安く売るのはやめて欲しい」
かつて熊本県にアメリカ発祥の世界的な会員制倉庫型店舗を展開する「コストコ」が進出したときに報じられた地元組合の声だ。
同じような声は各地のコストコで起こってきた。数年前に宮城県でコストコが進出したときも地元ガソリンスタンドの一部が廃業、30%以上の販売量がコストコに持っていかれたと報じられたこともある。コストコのガソリン価格はその地域の販売価格にもよるが1リットルあたり10円から20円ほど安い。以前の筆者の取材にも地元ショッピングモール社員の話として「商店会で高齢の店主が『コストコが金にあかせて人をかき集めている』『地域を乱している』とこぼしていた」と語っている。
価格の「安さ」の脅威と同時に、コストコの賃金の「高さ」という「黒船」が日本、とくに最低賃金800円台、900円台の地方に押し寄せている。ちなみにこの国では最低賃金審議会の決める最低賃金時間額(厚生労働省)が1000円を超えているのは東京、神奈川、大阪だけで。44道府県では900円台、800円台というのが現実だ。
コストコが地域の時給を上げるのでは
「地域を乱す高い時給は困る」
筆者は『全国各地でコストコ「高時給求人」の衝撃広がる 群馬県の経営者は「時給1500円は無理」と嘆息』で群馬の経営者の声を紹介した。群馬の最低賃金は895円。コストコは最低でも1200円台(1250円)スタートで、現在では多くが1500円以上のスタートとなっている。2024年8月開業予定の沖縄ではスタート1600円を予定している(沖縄の最低賃金は853円)。「深夜勤務でもないのに出せない」という声もあった。地域によっては「最低賃金カルテル」とまで言わないが、地元商工会との関係もある。これも筆者は『人手が足りないはずなのに、最低時給に近い額で募集が続けられるのはなぜか』で書いた。
コストコは日本のどこであっても地域の相場と関係のない時給としている。最低賃金が853円の青森、秋田、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄であっても基本、1250円から1500円以上のスタートである。コストコの昇給は労働時間に比例して上がる(1800円~2000円)。職務によって幅はあるので細かな差異は置くが、とにかくコストコの時給は高い。とくに地方からすれば。それは確かだ。
この理由をコストコは「グローバルスタンダード」だとしている。つまり都会だから、田舎だからと差をつけず世界の中の「日本」という括りで時給を決めている。