女性を悩ませる生理中の不調や閉経、更年期障害。これらはすべて「エストロゲン」「プロゲステロン」などの女性ホルモンの増減によって引き起こされる。骨や皮膚、血管、自律神経などの健康を守る働きを持つエストロゲンの分泌量は20代でピークを迎え、50代頃、つまり更年期を迎えると激減し、閉経するとほとんどつくられなくなる
女性ホルモンの減少に伴う弊害は、更年期障害だけではない。ただの更年期障害だと放っておくと、またしても重大な病気を見逃す可能性がある。成城松村クリニック院長の松村圭子さんは、「血管」と「骨」の病気に注意すべきだと話す。
「エストロゲンをはじめとした女性ホルモンはコレステロールからつくられるため、女性ホルモンが減少する更年期以降は、コレステロール値が上がりやすい。それゆえに動脈硬化を起こしやすく、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がります。
日本人女性の平均寿命は世界一といえるほど長いですが、その分健康で幸せな老後が長くなるという考えは大きな間違い。要介護・介助期間も平均12年と長く、健康寿命は短いとすら言えます」(松村さん)
それを少しでも延ばすための要が「骨」であり「血管」なのだ。特にエストロゲンには、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぐ働きもある。女性ホルモンが減少する更年期以降は、骨密度が低下しやすい。男性よりも女性の方が骨粗しょう症になりやすいのはそのためだ。実際、60代女性の約5人に1人、70代女性ではなんと約3人に1人が骨粗しょう症で、その数は男性の2〜3倍にも及ぶ。福岡歯科大学口腔医学研究センター長の平田雅人さんが言う。
「骨粗しょう症に明確な前兆はありませんが、更年期以降“身長が低くなってきた”“壁に背中をつけて立ったとき、後頭部が壁につきにくい”と感じたら、骨が弱り始めている可能性があります」(平田さん・以下同)
骨の健康に欠かせないのは、エストロゲンだけではない。“骨ホルモン”とも呼ばれる「オステオカルシン」は骨の細胞から分泌され、骨の健康を守る“柱”でありながら、生活習慣病の改善、記憶力や筋力の向上など、全身の健康にも大きく関与している。
「骨量そのものが低下してくると、血中のオステオカルシンの量が少なくなり、生活習慣病リスクの増加や記憶力の低下など、全身の不調を招きます。特に、もともとやせ型の人や大量のアルコールを飲む人、喫煙習慣のある人、糖尿病や肥満などの生活習慣病がある人は、骨粗しょう症になりやすいのです」
対策としてまず思いつくのは「牛乳を飲むこと」。確かに牛乳にはカルシウムが豊富だが、それだけでは不充分だ。
「カルシウムさえ摂れば、骨がつくられるわけではありません。牛乳が骨の健康に役立つのは間違いありませんが、それだけではなく、カルシウムの吸収効率を高めるビタミンDやオステオカルシンを活性化させるビタミンK、たんぱく質なども摂らなければ、せっかく摂ったカルシウムがしっかり作用しないのです」