7月4日の自民党本部には緊張が張り詰めていた。「維新に勝てる候補を選ばなければならない」──自民党の茂木敏充・幹事長と森山裕・選対委員長は佐藤ゆかり氏(二階派)、中山泰秀氏(安倍派)、岡下昌平氏(二階派)ら前回選挙で落選した大阪の自民候補6人を前に、候補者(支部長)差し替えのための公募の実施、つまり「クビ」を言い渡したのだ。
「どういう判断基準で公募対象としたのか」。6人はなおも食い下がったが、「幹事長も選対委員長も『公募にはあなた方も参加できます。もう決まったことです』と取り付く島もなかった」(出席者)という。
面談後、佐藤氏が会見で「支部長を差し替えて大阪の自民党が刷新できるわけではない」と捨て台詞を残して政界引退を表明し、話題を呼んだ。
自民党の議員・候補者にとって、選挙で党の「公認」を得られなければ議員として生き残れない。その生殺与奪の権を握っているのが、選対委員長の森山氏なのだ。
解散・総選挙を視野に入れる岸田首相は選対委員長に森山氏を抜擢、「10増10減」の衆院定数是正に伴う公認調整をはかる特命を与えた。
「森山さんは各選挙区の情勢調査を行ない、議員・候補の地元活動や党員獲得数などのデータを集めた閻魔帳をつくって差し替えを判断している。候補者選びは都道府県連の推薦が前提になるが、それに従えば全員落選した大阪では落選議員たちが傷をなめ合って候補者差し替えが難しい。そこで森山さんは茂木さんを先頭に党本部に『大阪刷新本部』をつくらせ、党本部直轄で候補者選びをやり直すという荒療治をやった」(自民党選対関係者)
この翌7月5日、岸田首相の腹心の嶋田隆・総理首席秘書官が森山氏の事務所を訪ねた。
「難しい役目を果たしてくれた森山さんに総理からの感謝の言葉を伝えたと見られています。嶋田秘書官を派遣するのはよほど総理に信頼されているということでしょう」(政治部記者)