「こんな思いをさせられるなら、結婚なんてしなきゃよかった‥‥まさかあんな最期になるなんて思わないじゃないですか……でも、振り返れば楽しいこともいっぱいありましたけどね」
ダチョウ倶楽部の上島竜兵さん(享年61)の妻・広川ひかる(52才)は、向き合った記者からふと視線を落とし、優しい笑みを浮かべた。
昨年5月11日、上島さんの訃報に世間は衝撃を受けた。
《出来の悪いドッキリだろ》
《竜ちゃんがそんな死に方を選ぶわけがない》
SNSなどではファンの悲しみにあふれたツッコミが並んだ。芸人としてお茶の間に笑顔を届けてきた上島さんは、死の直前、広川の前では全く違う一面を見せていた。広川はいまも「もっとできることはあったと思う」と後悔を口にする。あれから1年あまり、上島さんの死について最愛の妻が初めて口を開く──。
上島さんは芸人の間では、「繊細な性格をしている」や「仕事に対して真面目すぎる」といった評価があったという。晩年はそこに腰痛や不眠症、コロナ禍での仕事の停滞、仲間と会えない寂しさなどが重なり、彼の心は蝕まれていった。
広川は「男性の更年期障害もあったのかもしれないけど、それだけが原因じゃないと思う。竜ちゃんのメンタルに大きな影を落としたのは、師匠の訃報です」と振り返る。2020年3月、「芸能界の師匠」と尊敬する志村けんさん(享年70)が亡くなったのだ。
「訃報が出たとき、私は実家にいましたが、『竜ちゃんのそばにいてあげなくちゃダメだ』と急いで自宅に戻りました。ひどく落ち込んでいて声もかけづらい状況で、しばらくはそれが続いていました。
夕飯に切り干し大根を出すと、志村さんは家庭的な料理が好きだったので、竜ちゃんは『これ志村さんが好きだったなぁ。あそこのお店で一緒に食べてさ……』と思い出話を始めて、お酒が進んできたら泣いちゃうこともありました。あとはテラスでたばこを吸っているなと思っていたら、1人で涙を拭っていたりして……志村さんの死をなんとかのみ込もうとしているんだなと。そういうときは、あえて声をかけないようにしていました」(広川・以下同)
この頃から、上島さんはぼーっとし、「心ここにあらず」といった様子を見せることが増えていったという。広川が病院に行くよう何度勧めても、答えはいつも同じ。「絶対いや」だった。それでもテレビでは変わらず明るく振る舞っていたが、昨年5月8日に放送された『ドリフに大挑戦スペシャル』(フジテレビ系)を見て、妻は明らかな異変を感じ取った。
「調子が悪い中でも出演した映像に違和感を覚えることはなかったんですが、精気のない表情に『まずいことになった!』と確信しました」
実家に帰省中だった広川は、放送翌日の9日に急いで帰宅。上島さんに「大丈夫?」と声をかけても反応はなく、じっと黙り込んでいる。いつものように睡眠導入剤をのんで眠りにつく夫を見て、妻は「このまま何事もなく、平和に過ぎていけばいいな」と願うことしかできなかった。
そして10日、夜になっても上島さんは相変わらず元気がない様子で、そのまま自室へ消えた。
日付が変わって5月11日の早朝、上島さんは天国へと旅立った。約1週間前には、同世代の俳優が縊死したとの報道があり、上島さんは気にしていたという。広川は、それも引き金になったのではないかと考えている。