食生活において、この時期悩ましいのが塩分の摂り方だ。塩分に含まれるナトリウムには血圧を上げる作用があるとされているため、一般的に高血圧と診断されると医師から減塩を指導されるケースが多い。
一方、大量の汗をかいてナトリウムと水分を体外に放出する夏場は、塩分を摂ることも重要と指摘されている。ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師が語る。
「そもそも塩分は生命維持に欠かせない栄養で、夏場に塩分を制限しすぎると、血中のナトリウム濃度が低下する『低ナトリウム血症』を発症するリスクが高まります。熱中症と合併することもあり、特に高齢の方ほど身体の中の水分量や塩分量を調整する腎臓の機能が落ちているので要注意です」
低ナトリウム血症は、初期段階では頭痛や吐き気などの症状が現われるがこれらはほかの要因によるものと誤解されやすく、進行すると意識障害や命を落とす危険性もあるという。
夏は減塩によるリスクも大きいという指摘もあるなか、塩分摂取はどう考えるべきなのか。谷本医師は「まずは塩分摂取量と血圧の関係には個人差があることを知っておきたい」と語る。
「血圧と塩分の関係は複雑で、個人の遺伝的要因や年齢、ライフスタイル、基礎疾患などで異なります。正常血圧者の15~20%、高血圧患者の30~50%は、塩分の摂取量と血圧に相関があると推測されていますが、日常診療レベルの簡単な検査ではまだわかりません」
さらに『運動・減塩はいますぐやめるに限る!』の著者で内科医の大脇幸志郎医師は「夏の減塩はもっと緩くしてもいい」と語る。
「減塩による降圧効果は実験室レベルの仮説にすぎず、実際には高血圧がない人が減塩をしても血圧はほとんど下がらないでしょう。さらに言えば、高血圧の患者が減塩することによって、体感できるような利益があったというデータも私の知る限り存在していません。
厚労省は、1日の塩分摂取量は成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満を推奨していますが、この数値にこだわる必要はないでしょう。特に高齢者は“塩は身体に毒”との思い込みが強く、普段から減塩を頑張りがちなので、多量の汗をかく夏はむしろ塩分の不足を招く恐れがあります」