高校野球の世界でも、ブルペンに弾道測定器「ラプソード」を設置し、ピッチング時の回転数や回転軸を計測して技術向上に活かしているチームは珍しくなくなった。学校が購入するケースだけでなく、プロ野球選手になったOBが契約金などで母校に寄贈することも増えてきた。そして、「AI」の導入はプロ注目の選手さえ“丸裸”にしてしまう。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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インタビュー内容まで研究して“データ化”
高校野球における技術革新が進む中、ラプソードを3台も保有し、最先端のハイテク機器を駆使してこの夏の愛知大会を勝ち上がったのが愛工大名電だ。
彼らは準々決勝で、今秋のドラフトで1位指名が予想される東松快征を擁する享栄と対戦。150キロを超える左の豪腕対策として、愛工大名電が利用したのが石川県の西野製作所が開発した人工知能(AI)搭載のバッティングマシン「Pitch 18」だった。開発段階から協力してきたという倉野光生監督が話す。
「普通のマシンだと、ストレート、スライダー、シュートと連続して、素早く投げ分けることは難しい。うちが導入しているマシンが優れているのは、たとえばスライダーのあとに、5秒ほどの間を置いて、反対の回転となるシュートやシンカー系のボールを投げられる。それを可能としているのがAIの力で、予め設定した組み立ての通り、最大60球まで異球種のボールが投げられます」
球種に応じてそれぞれ回転数を設定することも可能だという。
「1分間の回転数が2500の120キロのスライダーとか、2000回転で115キロのスライダーというように、細かく設定できるため、投げられる球種は無限大です。相手投手を研究する中で、カーブ、カーブ、ストレートと配球してくる傾向があるならばマシンもその通りの配球にインプットして対策を練っていきます」
大阪桐蔭の前田悠伍と共に、世代を代表する左腕である東松をいかにして攻略したのか。
「アウトコース高めへ2400回転の148キロのストレートと、膝元からボールになる128キロのフォークボール(900回転)をひたすら打ち込みました。高校野球では、公式戦や相手校のデータを集めることはできない。東松君がインタビューで話している内容などを元に、彼の球速や回転数、フォークボールの落差などを想定し、それよりもワンランク上のレベルのボールを打ち込みました」