原因はわからない
前出の笠井医師が言うように、抜本的治療法は現在まで確立されておらず、特効薬もない。だからこそ、坂田医師は「信頼できる耳鼻科の専門医に診てもらうことが大事」だと指摘する。
「最初は片側だけで我慢できた耳鳴りでも、放置することで頭全体に響く『頭鳴り』のレベルになると脳過敏性症候群や頭痛などを引き起こすこともある。しかし、一部には『耳鳴りは病気じゃない』『放っておけばいい』という医師がいて、患者さんによっては治療を諦める人も少なくない」
怖いのは、耳鳴りの原因を突き止めずに放置することで、ほかの病気を見逃すリスクがあることだ。その代表的な疾患の一つが「聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)」だ。笠井医師が解説する。
「聴神経腫瘍は聞こえの神経(聴神経)から発生する良性腫瘍で、脳腫瘍のなかでも頻度が高いとされます。この腫瘍は時間をかけて大きくなり徐々に聴神経を圧迫するため、進行性の耳鳴りや難聴が症状として現われることが多い。MRIで診断可能ですが、腫瘍が数ミリ以下と小さい場合は見つからないこともあるため、聴神経腫瘍が原因の耳鳴りが疑われる際は、特に丁寧な経過観察が重要です」
腫瘍が大きくなると脳の中のほかの神経にも影響を及ぼす恐れがあるため、腫瘍を取り除く手術や特殊な放射線治療が必要になるという。しかし、手術をすれば耳鳴りを根治できるわけではない。
「大きくなった腫瘍で脳が圧迫され、障害が生じている可能性がある人に手術が勧められますが、タイミングの見極めが難しい。進行が遅く、転移もしない良性腫瘍なので、10年以上経過観察のケースもあります。また、腫瘍を取り除いても失われた聴神経の機能が元に戻ることはありません。手術をしても、耳鳴りを消失させることは難しいのが実情です」(笠井医師)
坂田医師もこう言う。
「治療にはビタミン剤の内服やメンタルケア、音響療法まで用いられることもある。特効薬はありませんが何もできないわけではないので、諦めずに治療に向き合っていただきたいです」
長期にわたることが多い耳鳴りの治療は、信頼できる耳鼻科の専門医に出会うことが第一歩だ。
※週刊ポスト2023年8月18・25日号