エンゼルス・大谷翔平(29)を間近で支えるのが、通訳の水原一平氏(38)だ。彼は、いかにして「唯一無二の通訳」となったのか。(文中敬称略)【全3回の第3回。第1回から読む】
「大谷の代役」として宴席に
日本ハム在籍時、大谷と水原は「特別仲が良いイメージがなかった」と関係者たちは口をそろえる。だが日本ハムで選手を献身的にサポートする水原の姿は、大谷の目に「信頼できる人物」と映ったのだろう。
2018年にエンゼルスに移籍して以降は、専属通訳として二人三脚で歩んでいる。入団直後にエンゼルスの選手たちがスマホのゲームで遊んでいることに水原が気付き、大谷にゲームのダウンロードを勧め、チームに溶け込むために一役買ったというのは有名な話だ。
『ルポ 大谷翔平』の著者でライターの志村朋哉(40)は、水原と他の通訳との違いに言及する。
「これまでの日本人メジャーリーガーの通訳さんは選手と上下関係がしっかりしている人が多かったのですが、大谷と水原さんの場合は本当に友達のような感じで、それでいて献身的に大谷をサポートしている。知る限りでは、ほぼプライベートもずっと一緒です。
以前は同じアパートの敷地内に住んで、送迎や買い出しも全てやっていた。本業の通訳でも、大谷のちょっと堅い調子のコメントを水原さんがカジュアルな言葉で訳す。アメリカ人に大谷の発信がうまく柔らかく伝わっている印象があります」
水原が名実ともに「世界一の通訳」となったのは、今年3月のWBCで間違いないだろう。栗山英樹監督(62)の強い希望で侍ジャパンの通訳となった「31人目の侍」は、大きな注目を浴びた。
「招集を受けた大谷に同行した形ですが、日本ハム時代から面識がある栗山監督の要請で、代表の通訳も務めることになった。ラーズ・ヌートバー(25)がチームに溶け込むことができたのは水原通訳の功績です。そもそもヌートバーに代表入りの声を最初に掛けたのも、栗山監督の依頼を受けた水原通訳でした。
WBC期間中に、いろんな選手のSNSにアップされた写真に水原通訳が映り込んでいたが、それぐらい選手間に溶け込んでいた。マイアミの決起集会では、大谷はトレーニングのために欠席したが、水原通訳が代役として出席したことでうまくフォローできたようです」(スポーツ紙デスク)
憧れだったWBCで、通訳として世界一を達成──。しかしその余韻に浸る間もなく、水原は本業である“大谷の専属通訳”に戻り、今シーズンの歴史的な活躍を支えている。
水原の仕事ぶり、人間性を紐解いていくと、大谷が絶大な信頼を寄せる理由が納得できる。前人未到の記録を目指す男は、今後も「最強の相棒」を手放すことはないだろう。
(了。第1回から読む)
取材協力/水谷竹秀(ノンフィクションライター)フィリピンを拠点に活動後、世界各国を取材。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小社刊)
※週刊ポスト2023年8月18・25日号