「みんなわかっていて来ているからね、誰かが密告することもない。何十年もそうやってきたんです」(偽物展示会の来場者男性)
都内のセレクトショップでバイヤーを務める堀田啓介さん(仮名・40代)は一度だけ、違法コピー品を流通させる場所だと知らされないまま、知人に誘われて展示会に参加した経験がある。堀田さんは、この偽物ビジネスが今、急拡大しているのだと頭を抱える。
「かつての偽物といえば、中国や韓国などで作られる低品質のコピー品、というイメージだったし一目瞭然でした。しかし、最近では偽物の精度もあがり、ちょっと詳しい程度の人がよく見るくらいでは、まず偽物だとわからない。高級ダウンジャケットなどは、本物を製造しているのと同じ工場で作られることもあり、プロでさえ見抜けないこともある」(堀田さん)
例えば、Aという高級ダウンジャケットの偽物の場合、偽物が作られているのは、本物のAが作られている工場なのだという。つまり、AとAの偽物は、同じ工場、同じ材質で作られており、製造のノウハウが共有されている。
「同じ工場で作ってるんで、偽物でも本物だと彼らは言い張る。その違いはタグがきちんとついているかどうかとか、多少縫製が荒いくらいで一見すると本物に見える。昼は、契約したブランドの正規品を作り、夜は余った材料で勝手にブランドの商品を作るんです。だからわからない」(堀田さん)
同様の事が、日本のバイクメーカーが中国現地に設立した工場でも発生していたことを筆者は思い出す。このバイク工場でも、堀田さんが説明するのと同じように、昼は本物を作り、夜は偽物を作っていた。その偽物は日本にも輸入され、本家より若干安価に販売されていたのだ。しかし、このメーカーも指をくわえて見ていたわけではなく、政府に取締りを働きかけたり、工場を撤退するなどの「対策」は行った。アパレル業界ではどうなのか。
「当然、中国側のこうした動きをブランドは知らないはずもなく、余り材料が出ないようにしたり、契約時間外で自社の商品が勝手に作られていないか確認をしています。しかし、まるでいたちごっこ。ブランド内部に協力者を作り、偽物製造を続けていると言われています」(堀田さん)