TSMC（台湾積体電路製造）本社で行われた「くまモン触れ合いイベント」。熊本県の蒲島郁夫県知事（右から３人目）と廖永豪TSMC副社長兼JASM会長（同５人目）ら。2023年1月［熊本県提供］（時事通信フォト）
最低賃金の全国平均1000円を掲げる岸田首相は先の中央最低賃金審議会が全国加重平均を1000円台としたことに対して「歓迎」と述べた。前後するがこの国の最低賃金の決め方は厚生労働省の中央最低賃金審議会がまず全国の都道府県に目安を出し、それを各都道府県の最低賃金審議会が参考に議論、答申する運びになっている。
その最低賃金審議会は公益代表、労働者代表、使用者代表で構成されている。使用者代表とは経営者のことで、冒頭の熊本県で全員反対に回った委員らがそれにあたる。ちなみに熊本県、2015年度の最低賃金は694円であった。7年で偉い上がりようだと捉えるか、たった7年前の話なのに熊本では600円台で働かされていた人がいたのかと捉えるか。
長い前置きとなったが、とても大事な前提なので置いたが、本題はこうだ。
この国の賃金は、それでもあまりに安すぎやしないか。
経営者にとっての日本人の労働の価値は、例えば熊本なら人間の価値は一時間あたり45円すら上げられないほどに低い、ということか。
もちろん、商売においてプラス45円を1時間で稼ぎ出すことがいかに大変かはわかる。しかし892円、1000円どころか900円にも届かない。今回、例として熊本県を挙げたが、なぜなら熊本県は台湾が誇る世界最大の半導体受託製造（ファウンドリ）企業「TSMC」が進出している。
これは当該審議でも話に上がったが、時価総額5000億ドル、世界500社に半導体を提供するマンモス企業TSMCの高待遇は県の経営者らにとって脅威となった。賃金破壊、待遇破壊ということだろうか。TSMCだけではない、都会だから、地方だからと賃金に差をつけず「日本」という括りで賃金を決める「グローバルスタンダード」の巨人、コストコもまた熊本に進出している。熊本の最低賃金改定は経営者側全員反対を押し切る形で決めて898円、コストコは1500円スタートだ。
どこに住んでいるかでなく何をしているかで決める、この当たり前を実行する黒船が、800円台の上げ幅でもめている自治体を尻目に「安くて、真面目で、よく働く」日本人労働者を求めて「グローバルスタンダード」の賃金を提示して人材を集めている。もちろん、価値があるから出すものは出す、必要だから必要なお金を必要な側が出すというのは当たり前の行為である。
『コストコが金にあかせて人をかき集めている』『地域を乱している』と地元経営者たちが声を上げる経緯は拙筆『全国各地でコストコ「高時給求人」の衝撃広がる 群馬の経営者は「時給1500円は無理」と嘆息』および『コストコ時給1500円「地方からの賃金破壊」が受け入れられていることは明白だ』で書いたが、熊本でも当時、コストコが横並びを無視してガソリンを安売りすることに対して「ガソリンを安く売るのはやめてほしい」とする地元商業団体の声があった。
