2021年に全面改定された三省堂国語辞典に初めて収録されて話題となった「人財」という言葉は、「人材」を財産の「財」に置き換えたもので、近年は企業の人事担当者や経営者が好んでよく使う。この新語に対し、社員は財産だという経営者の思いがこめられているのだという意見がある一方で、うさんくさい、信用できないと感じる人も多い。現代を生きる人たちの生活と労働について記録を続けている日野百草氏が、雇用側、経営者たちが労働者たちを評価する指標のひとつ、最低賃金上げ幅をめぐる攻防について語った。
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やっと最低賃金898円(時間額)で決着した。
熊本県の話である。同県では熊本労働局の審議会で2023年度の最低賃金について審議されてきたが、労働者・経営者委員13人中9人の賛成で決まった。経営者として出席した4人は全員反対にまわった。
引き上げは45円。過去最大の上げ幅である。
つまり、熊本県の経営者として出席した4人は1時間あたり45円すら上げたくない、せめて上げるにしても中央最低賃金審議会が示した目安額で収めたかった、ということになる。厚生労働省が審議会で提示した熊本県の最低賃金目安は892円、それを6円上回った。
当の自治体はもちろん、一部の報道にも「45円増は過去最大の上げ幅」「全国の最低賃金から脱出」とあるが、絶望とまで言わないが暗澹とさせられる。1時間あたり45円すら上げたくなかったのかと。それも反対したのは経営者全員である。ちなみに2022年の審議会でも経営者側の5人全員が反対にまわった。このときの引き上げ額は32円。32円であっても上げたくないものは上げたくない、ということか。
あくまで熊本県は一例でしかないが、大都市圏を除けば日本のほとんどが熊本県と同様の「過去最大の上げ幅」「過去最高額」という名の「低賃金」にある。先進各国から見るならその大都市すら「低賃金」だ。
この国の賃金は、あまりに安すぎやしないか
2023年度の日本全国の最低賃金は出揃ったが、最高は東京都の1113円。現状で最低の沖縄県が896円で答申されている。沖縄も過去最高の上げ幅だが、「最高の上げ幅でも896円」である。同じく最低賃金だった高知県は897円で決着、「最低賃金県」から1円でも脱却したかったのかと思うのは穿ち過ぎか。