レディース少女と雑誌編集者の30年前の青春の日々を描いた『特攻服少女と1825日』が話題を集めている。同書は第29回小学館ノンフィクション大賞受賞作。作家・アイドル評論家の中森明夫氏は同書を読み、何を感じたのか。
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1990年代の雑誌文化の隆盛が描かれているところは、本当に懐かしかった。ぼくもあの頃、『週刊サンケイ』からリニューアルしたばかりの『週刊SPA!』で写真家の篠山紀信さんと「ニュースな女たち」というグラビアの連載ページを作っていて、1回『紫優嬢』を取り上げたことがありました。
「ニュースな」というタイトル通り、女優やモデルに限らずその時代や社会を象徴するような女性に出てほしいと思って、見つけたのが彼女たちだったんです。ほかにも、きんさんぎんさんや叶姉妹、鈴木その子さんなど、一大ムーブメントになった女性たちに出演してもらった思い出があります。
『紫優嬢』の掲載は1991年の3月、撮影したときはまだかなり寒かったけれど、リーダーの女の子の指示のもと、特攻服にサラシ姿でみんなテキパキと動いてくれたことをよく覚えています。ただ、誰も篠山先生のことを知らなかったのには驚きました(笑い)。
発売後は大きな話題になったし、彼女たちをアイドルのように捉える向きもありました。1991年はおニャン子クラブのブームが去った後の「アイドル冬の時代」だったという理由もありますが、やっぱり雑誌の力が強かったんじゃないかな。
『宝島』で「バンドマンの街」として高円寺を特集したら駅前の商店街が急にイギリスのキングス・ロードみたいに賑わい出したり、『オリーブ』ブームがきっかけで原宿にラフォーレ2が誕生したり。街の風景が一変するほど、雑誌のパワーって、すごかった。
本書にも書いてあるように読者に「居場所」を提供するという役割も雑誌ならでは。
編集者という、先生でも親でもない絶妙な立ち位置の大人の存在って、当時の読者にとって得がたいものだったんじゃないかな。
本の中でも、比嘉さんが彼女たちに向けるまなざしは、温かいけれどすごくフラットですよね。もしレディースや不良少女がテーマのノンフィクションでも、ジャーナリストや新聞記者が書いていたらまったく違うものになったと思う。
そういった意味でも、唯一無二の一冊といえるでしょう。
【プロフィール】
中森明夫(なかもり・あきお)さん/1960年、三重県生まれ。作家・アイドル評論家。1980年代にライターとしてデビュー、多彩なメディアで活躍。近著に『TRY48』がある。
『特攻服少女と1825日』(小学館)
居場所を求めてさまよっていたレディース総長たちと「活字のマブダチ」との青春の日々と、彼女たちのいまをつづったノンフィクション。
※女性セブン2023年8月31日号